「「現場に出れば成長できる」
俳優や声優、歌手として活動していると、そう考えたくなる時があるかもしれません。
もちろん、現場で足りなさに気づくことはあります。
現場でしか見えない課題もあります。
共演者、監督、演出家、スタッフ、カメラ、観客、稽古場の空気の中で、自分の現在地がはっきり見えることもあります。
あとから振り返って、「あの現場で大きく変わった」と感じることもあるでしょう。
でも、それは結果として起きることではないでしょうか。
「(結果的に、ありがたいことに)いろいろな学びがあった、ほんとに学ばせてもらいました。」感謝することや、振り返ることあっても、
最初から「現場で育ててもらえばいい」「現場に出れば何とかなる」と思っているなら、準備の基準が低くなっているかもしれません。
そして、そもそも、前提が違うかも…。
現場は、育つ場所ではありません。
現場は、育っているものを出す場所です。
現場は学校でも養成所でもありません
現場には、相手役がいます。
監督や演出家がいます。
撮影部、音声、衣装、メイク、制作部がいます。
舞台であれば、演出部、舞台監督、照明、音響、共演者、スタッフがいます。当然、お客様も入りますよね。
そこでは、すでに時間も予算も人もあちこちで動いています。
自分が準備不足のまま現場に入ると、自分だけの問題では終わりません。
台本を読みこめていない。
必要な言葉とその意味やバックグラウンドを受け取れていない。
目的、目標、方法が「つたわる形で」整理できていない。
自意識の問題、相手とのやり取りに向かえない。
上がりや緊張との付き合い、身体や声が固まる。
安全や演出上の効果のための、段取りを受け取れない。
意図せずとも、つい確認が遅れてしまう…
全体連絡を自分ごととして読めない。
こうしたことは、現場に入ってから急に解決するものではありません。
現場は、それらが見えてしまう場所です。
現場は、学校ではありません。
養成所でもありません。
基礎づくりの代わりをしてくれる場所でもありません。(基礎と初歩も違います。)
「現場で育つ」と「現場で育ててもらう」は違います
「現場で育つ」という言葉そのものが間違っているわけではありません。
現場で学ぶこと自体はたくさんあります。
私自身、本当に監督やプロデューサー、俳優だけでなく、様々な方々に恵まれて、いつも学びが多く、心の底から感謝しています。
当然、現場から学ぶ姿勢も、むしろ大事です。
周囲から見て、あの俳優は現場を経験して変わった、と感じることはあります。
本人も、現場で自分の不足に気づくことはあります。
実際の相手、空間、段取り、カメラ、観客の前でしか見えないこともあります。
でも、今回問題にしたいのは、「現場で学ぶこと」ではありません。
「現場で育ててもらうつもりで行くこと」です。
ここが大きな違い。
準備してきたものがあるから、現場で更新される。
基礎があるから、現場で修正できる。
聞く力があるから、演出を受け取れる。
自分で練習する力があるから、足りなさに気づいた後に変えられる。
現場で育つことと、現場で育ててもらうことは違います。
現場で学びが起きる俳優は、現場の外で準備しています。
そもそも日常から、準備しないで、試合に出た人はいません。
現場で学ぶことはあります。でも、学ぶために現場へ行くわけではありません
現場で学ぶことはあります。
それは、本当に貴重なことです。
直接「学ぼう」と狙っていなくても、現場に入れば、多くの俳優は自然と何かを受け取ります。
結果的に、大きな学びになることもあります。
それはありがたいことです。
でも、最初から「現場で学ばせてもらえばいい」と思って行くのは違います。
お客さんは、あなたが学ぶところを見に来ているわけではありません。
撮影も、あなたの練習や確認を待つために動いているわけではありません。
共演者もスタッフも、あなたが現場で一から育つまでの時間を用意しているわけではありません。
では、「現場に行って学ばせてもらう」までの間、何をしているのでしょうか。
ただ人生経験を積んでいれば、いつか演技に変わる。
現場に行けば、自然と見えてくる。
上手い人を見れば、自分も分かるようになる。
そう考えているなら、少し危ういと思います。
見ることと、見えていることは違います。
経験することと、経験を使えることも違います。
現場で学びが起きるのは、現場の外で準備してきたものがあるからです。
確かに、「芸は見てぬすめ」のような言い回しや時代もあったとは思います。
しかし、何を見たらいいのか、そのこと自体が非常に深い示唆をはらんでます。そもそも「みえない」という課題があるのですから…
「現場で勉強します」という考えが危うい理由
本人が最初から「現場で勉強しよう」と思っていると、現場に入る前の準備が薄くなります。
細かいところは現場で分かればいい。
相手とのやり取りは、やっていくうちに、何とかなる。
声や身体は、その場できっと雰囲気がわかってうまくいく。
監督や演出家がどうしたいかがわからないから、こちらも準備のしようがない…
共演者が引っ張ってくれるはず。逆に生意気にでしゃばるのは良くない…
現場に出れば、きっと何か分かるようになる。
そう考えていると、準備の基準が下がります。
でも現場は、本人の学びの都合だけで動いていません。
現場では、すでに作品が進んでいます。
共演者もスタッフも、それぞれの準備をして来ています。
その中で、準備不足を一から引き受けてもらう前提でいると、周囲に負担がかかります。
現場は、基礎づくりの代わりをしてくれる場所ではありません。
現場がある俳優には、締切があります
現場がある俳優には、何かしらの締切があります。
台本を読む期限がある。
顔合わせやリハーサル、稽古日がある。
動かせない撮影日がある。
衣装パレードや合わせがある。
マネージャーや制作部が動いている。
だから、現場がある俳優には危機感があります。
上手いか下手か。
キャリアが長いか短いか。
有名か無名か。
そこばかりではなく、現場がある俳優は、つねに時間の中で動いています。だからこそ、先延ばしができないともいえます。
自分が止まると、誰かの準備も止まる。
だから、返信ひとつ、日程調整ひとつ、課題の提出ひとつにも、ある程度の緊張感が出ます。
それは、単なる礼儀の問題だけではありません。
作品に関わる準備の一部です。
現場がまだない時期こそ、準備の差が出ます
現場がまだない時期、隙間のある期間は、お休み時間ではありません。
もちろん、病気や怪我、様々な事情でのしっかり休むこと、治療や、健康のための休養は大切です。
ただ、それと並行して、現場に出せるものを育てておく時間です。
現場がない時期は、誰も締切を作ってくれません。
誰も毎週、課題を確認してくれるわけではありません。
誰も「その読み方では現場に出せない」と言ってくれるわけではありません。
だからこそ、自分で危機感を持つ必要があります。
締切を守る。
取り組んでいることや、協力してる方がいるなら、候補日を早く出す。
全体連絡を自分ごととして読む。
課題を提出する、言われたことを次の行動に変える。
台本を読んだつもり、練習をしたつもり、で終わらせない。
身体や声の癖を放置しない。
個人レッスンやクラスで、現場に持っていく前の基礎を整える。
現場がない時期に何をしているかは、いざチャンスが来た時に出ます。
チャンスが来てから慌てるのではなく、チャンスが来た時に動ける準備をしておく。
それも、俳優や歌手の仕事の一部だと考えると、飛躍につながっていきます。
全体連絡を読めないことは、台本読解にもつながります
余談かもしれませんが、全体連絡を自分ごととして読めないことは、台本読解にもつながります。
書かれていることを読む。
自分に関係する情報を拾う。
何を求められているのかを整理する。
そこから次の行動に変える。
これは、連絡でも台本でも同じです。
台本も、ただ文字を追うだけでは、演じる準備になりません。
誰に対して、何のために、今ここで何をしているのか。
何を変えようとしているのか。
なぜその言葉でなければならないのか。
なぜ今、その相手に向かうのか。
そこまで読めて初めて、現場で試せる準備になります。
「読んだ」という状態と、「演じるために読めている」状態は違います。
現場にいると、ふと気づくことがあります。チーフたち、つわものたちが、ものすごく全体のあらゆる部分を「読んで、想像して」判断して動いている。
一方で、(自戒もこめてですが)なんだか自分の事ばかりやっている…という瞬間…
恐ろしいですね。
現場に評価を丸投げしない
現場に出れば、自分の実力が分かる。
そういう面は確かにあります。
でも、現場に評価を丸投げしてはいけません。
現場で指摘されたら直す。
現場で足りなさに気づいたら考える。
現場で怒られたら次から気をつける。
それだけでは、いつも現場が最初の実験台になってしまいます。
現場に出る前に、自分で分解できることがあります。
台本の読み方。自分の癖。
役の目的や目標、仮の設定の仕方。
相手とのやり取り。
身体の構えや表情のパターン、内面の様子。
声の出方。自分の使える幅。
セリフが止まる理由。
緊張した時に何が固まるのか。
言葉が相手に届く前に、どこで自分が止まっているのか。
これらは、現場の外で扱えます。
現場に行くまで何もしないのではなく、現場に出す前に、現場の外で準備の質を上げておく。
その積み重ねが、現場での受け取り方、反応の仕方、指示の理解、相手とのやり取りに出ます。
クラスや個人レッスンは、現場に出せる状態を育てる場所です
クラスや個人レッスンは、現場で育ててもらうための代わりではありません。
現場に出せる状態を、現場の外で育てておくための場所です。
台本読解クラスでは、セリフを入れる前に、目的、目標、方法を整理します。
身体と声のレッスンでは、声を出す前に、身体がどう固まり、息がどう止まり、言葉が相手に届く前に何が起きているのかを見ます。
個人レッスンでは、その俳優の癖、理解のズレ、準備の仕方、台本の読み方を、一対一で具体的に見直します。
現場で何とかしてもらうのではなく、現場に持っていける準備を増やしておく。
そこからすでに、プロとしての準備は始まっています。
この記事を書いた講師
鍬田かおる
演技コーチ、アレクサンダー・テクニーク教師。
俳優、声優、歌手、芸能事務所所属者に向けて、台本読解、身体、声、相手とのやり取り、現場前の準備を指導しています。
指導歴20年以上。
舞台、映像、音楽、ダンス、身体表現の学びを横断しながら、プロ・セミプロの実演家が、現場で必要な準備を自分の力として扱えるようにサポートしています。
また、IDC認定のインティマシー・コーディネーター(ディレクター)として、映像や舞台における親密なシーン、身体接触、キス、脱衣、ベッド上の動きなどを、俳優と制作現場の双方にとって扱いやすい形に整理する仕事も行っています。
これまでの演技メソッドや単発の学びに違和感があった方へ
積み重ねがあって初めて、稽古場や撮影現場で試せるものが増えていきます。
単発で何かを試すだけでなく、台本読解、身体、声、相手とのやり取りを継続して整えたい俳優、声優、歌手の方に向けて、年間を通じて様々な切り口のクラスと個人レッスンを行っています。
日本ですと、ご年齢やこれまでのキャリアを気にされる方も多い傾向があります。でも「今日が一番若い日」。そう思って、私も、毎週毎月ブラッシュアップに励んでます。
クラス案内・個人レッスン・講師依頼について
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現場の準備はもちろん、台本読解、演技実践、身体と声、歌手やダンサーの方のためのアレクサンダー・テクニーク、インティマシー・コーディネーター(ディレクター)としての映像や舞台の現場相談など、目的に応じてご相談いただけます。
事務所・マネージャーの方で、
「所属俳優にレッスンを受けさせたい」
「講師として招聘を検討したい」
といったご相談も歓迎しています。
オンラインでのヒアリングも可能です。
6月の少人数制でしっかりつかめる演技のオンラインでの準備と実践のクラスの締め切りが近づいています、気になる方はお早めにご連絡ください。
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演技コーチ/ムーヴメント指導・演出・振付/IDC認定インティマシーディレクター/STAT認定アレクサンダー・テクニーク指導者/スピーチ&プレゼンテーションコーチングActing Coach/Movement Direction/IDC qualified Intimacy Director/STAT certified Alexander Technique teacher, mSTAT, Movement Teaching/Speech and Presentation Coaching




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