現場やレッスンで、
「もっと気持ち込めて」
「ちゃんと状況想像して」
「もっと深く」
と言われたことはありませんか。
その時に、
「自分は気持ちが足りないのかな」
「もっと感情を出さなきゃいけないのかな」
「もっと役の気持ちを考えなきゃいけないのかな」
と考えてしまう俳優は少なくありません。
声優、歌手、ダンサーの方でも、セリフや歌詞、場面の中で同じようなことが起こります。
一通り台本は読んでいる。
セリフも覚えている。
相手を見ることも意識している。
状況も想像しているつもり。
それでも、なぜか演技が深まらない。
その時、本当に見直すべきなのは、気持ちの強さではないことがあります。
問いそのものが、少しズレているのかもしれません。
「もっと深く」と言われて、気持ちを足そうとしていませんか
「もっと深く」と言われると、多くの人はまず内面へ向かいます。
もっと悲しむ。
もっと怒る。
もっと傷つく。
もっと好きになる。
もっと苦しくなる。
…でも、一体それは、どうやって?
私はつい心の中で、ツッコんででいました。
もちろん、役の人物の内面を想像することは大切です。
ただ、そこで「どうやって気持ちを深めようか」と考え始めると、演技がかえって狭くなることがあります。
感情を強くしようとして、身体が固まる。
声が浅くなる。
セリフが説明っぽくなる。
相手を見ているつもりで、ただじっと見つめるだけになる。
自分の中では一生懸命感じようとしているのに、相手には働きかけていない。
本人の中では必死なのに、外から見ると動きが止まっている。
こういうことは、演技経験が浅い人だけに起こるわけではありません。
むしろ、真面目に準備してきた人ほど、「もっと深く」と言われた時に、自分の内側をさらに掘ろうとしてしまうことがあります。
「どんな気持ち?」を掘り続けても、深くならないことがある
私自身、例えば
「夫を亡くした女たちの苦しみがわかっていない」とか「もっといろんな複雑な気持ちがあるだろう」「いや、そこはどんなふうに苦しんだよ」などと演出から、叱られたり、指摘されたりしたことがあります。
確かに、言われてる意味も状況もわかっていたのですが、何どうしたら深くなるのかわからない。
そして、これらのパターンは、気持ちが浅かったのではなく、想像してる内容が具体的でなく、かつ、個人的でもなく、その上、感覚に結びついていなかったんです。
今、それが振り返るとわかります。
「どんな気持ちなんだろう?」と考えること自体が悪いわけではありません。
でも、それだけを掘り続けると、演技は実際の場面から離れていきます。
なぜなら、気持ちだけを考えていると、次のような大事な問いが抜け落ちやすいからです。
- なぜ、その言葉を言う必要があるのか
- なぜ、その行動をせざるを得ないのか
- 今、何に引っかかっているのか
- ここで、何を解決したいのか
- では、次に、相手に何を変えてほしいのか
- 今、この場面で何が欲しいのか、それはなぜなのか…
「悲しい」「怒っている」「傷ついている」といった気持ちの名前を見つけても、それだけでは行動になりません。
気持ちの種類を細かく分けても、その人物がなぜ今その言葉を言うのかが見えなければ、セリフは動きません。
「ちゃんと状況想像して」と言われた時も同じです。
ただ悲しい状況を思い浮かべる。
ただ怒っている理由を増やす。
ただ苦しい過去を足す。
それだけでは、場面の中で何をしているのかが曖昧なまま残ることがあります。
普段の私たちは、先に気持ちを作ってから動いているわけではない
これは、イギリスの演劇学校で、さらに詳しく教える立場になる過程を整理してるときに指摘され、さらに気づいたのですが、普段の生活を考えると、私たちは先に「気持ち」を作ってから動いているわけではありません。
たとえば、誰かに大事なことを伝えたい時。
先に「よし、強い感情を作ろう」と考えてから話し始めるわけではありません。
伝えたいことがある。
解決したい問題がある。
相手に分かってほしいことがある。
黙っていられない引っかかりがある。
これだけは変えてほしい、という切実なことがある。
だから言葉が出ます。
その行動の中で、怒りや悲しみ、不安、喜び、焦り、安心などを体験していきます。
つまり、感情は孤立して存在しているのではなく、状況、目的、相手、問題、行動と結びついています。
演技で深めたい時も、同じです。
気持ちを先に増やすのではなく、その人物が何に向かっているのかを具体的に見る。
その方が、結果として内面も、身体も、声も、セリフも変わりやすくなります。
特に、イギリス、アメリカの私の演技指導の師匠たちは、みな変化について、行動について、掘り下げていました。
直接的に、「どのような気持ちか」「もっと気持ちを強くしろ」このようなアプローチが、結果的に、難しいことを知っていたからかもしれません。
感情というものの様子や感覚を理解しようと努めるプロセスは大事ですが、それは下ごしらえの手前に過ぎず、いわば素材を理解しようとするようなもの。
もっとその先に進む必要があるのです。
本当に見るべきなのは、言葉と行動が生まれる理由
「もっと深く」と言われた時に、本当に見直したいのは、どこを具体的にしたら深くなるのかです。
たとえば、あるセリフを言う時。
そのセリフは、ただ気持ちを表すためにあるのでしょうか。
それとも、相手を止めるためなのか。
では、相手に認めさせるためなのか。
なぜ、相手の考えを変えるためなのか。
何のために、その場から逃げるためなのか。
どの関係をつなぎ止めるためなのか。
いつ、自分の立場を守るためなのか…
ここが曖昧なままだと、セリフは「気持ちの説明」になりやすくなります。
反対に、何に向かっているのかが具体的になると、セリフは相手に働きかけるものになります。
同じ「ごめん」でも、ただ反省しているのか、相手をなだめたいのか、話を終わらせたいのか、もう一度チャンスが欲しいのかで、まったく違います。
同じ「大丈夫」でも、本当に安心させたいのか、踏み込まれたくないのか、これ以上心配されたくないのか、相手を試しているのかで、言葉の出所は変わります。
演技が深まるというのは、気持ちを大きくすることではありません。
言葉と行動が、場面の中で必要になる理由が具体的になることです。
ここの仕組み作りを私は個人レッスンや演劇クラスでは大事にしています。
だからこそ、応用する時、他のジャンルや、異なる作品でも、ご自身で使いこなしていけるのです。
台本に書かれている事実をこぼすと、内面は深まらない
自分の内面を深めようとしているのに、台本に書かれている事実をこぼしてしまうことがあります。
これは、とてももったいないことです。
なぜなら、台本の中には、その人物が何に縛られ、何を避け、何を欲しがり、どこで引っかかっているのかを読む手がかりがあるからです。
場所。
時間。
相手との関係。
直前に起きた出来事。
言っていることと言っていないこと。
何度も出てくる言葉。
急に話題が変わるところ。
相手の反応。
ト書き。
沈黙。
言い換え。
避けている話題。
こうした事実をこぼしたまま、「もっと気持ちを深くしよう」としても、演技は不安定になります。
台本に書かれていることを見落としたまま、自分の内面だけを掘ると、役の人物から離れて、自分の想像の中だけで演じてしまうことがあるからです。
もちろん、想像は必要です。
でも、想像は台本の事実と結びついているからこそ、演技の材料になります。
根拠のない想像だけが増えていくと、選択肢は増えたようでいて、実際には絞れません。
最後に何を選ぶのかが怖くなるのは、選択肢が広がっていないからではなく、根拠が整理されていないからかもしれません。
これは性格の問題ではなく、読解の癖だったり、整理の習慣ですので、直せます。
心当たりがあった方も、ご安心ください。
「相手を見て」が、ただ見つめることになっていないか
「相手を見て」と言われた時も、注意が必要です。
相手を見ることは大切です。
でも、相手を見ようとしすぎて、ただじっと見つめるだけになることがあります。
相手を見ているのに、相手に働きかけていない。
反応しているつもりなのに、実際には相手の変化を「観察しているだけで、使っていない。」
そうなると、演技は止まりやすくなります。
大事なのは、相手を見ることそのものではなく、相手に何をしたいのかです。
相手とのやり取りが具体的になると、「見ている」ことが、ただの形ではなくなります。
セリフも、表情も、沈黙も、相手に向かう行動として変わり始めます。
私も、そのために発明したエクササイズや、トレーニングを年間を通じて、個人レッスンやグループのクラスでも提案しております。
「もっと深く」を感覚任せにしないために
「もっと深く」という言葉は、便利ですが曖昧です。
言われた側は、何をどう変えればいいのか分からないまま、感覚で頑張ろうとしてしまうことがあります。
でも、本来はもっと具体的に見直すことができます。
- 台本に書かれている事実を、どこまで拾えているか
- その人物が今、何を解決しようとしているか
- 相手に何を変えてほしいのか
- そのセリフが、相手にどう働きかけているか
- 身体が固まって、選択肢を狭めていないか
- 声が説明になって、相手に届く行動になっているか
- 読んだことを、実際のやり取りの中で使えているか
ここを見ていくと、「もっと深く」は感覚任せではなくなります。
どこを具体的に見れば、演技が変わるのか。
どこが曖昧だから、セリフが説明になるのか。
どこが止まっているから、身体や声が狭くなるのか。
それを整理していくことができます。
整理しないで使えないのは、人生の常。笑
美しい図書館、クローゼットを思い出してくださいね。
あなたのせっかくの知識や経験、面白いひらめき、これまでの体験を、必要な時に使えるようにしていきませんか。
台本読解、身体、セリフ、シーン実践をつなげて扱う理由
私のレッスンやクラスでは、台本読解、身体、動き、感覚、セリフ、相手とのやり取りを分けたままにしません。
なぜなら、演技の中ではそれらが全部つながっているからです。
台本読解で、事実、状況、目的、関係、行動を具体的に読む。
身体や動きから感覚をもらい、使える方法を増やす。
セリフを説明で終わらせず、相手に働きかける形にする。
読んだことを、相手とのやり取りの中で使える形にする。
この流れがつながってくると、「もっと気持ち込めて」と言われた時に、気持ちを盛る方向へ迷いにくくなります。
「ちゃんと状況想像して」と言われた時にも、何を具体的に見ればいいのかが分かりやすくなります。
自分の中で頑張るだけではなく、台本、身体、声、相手、状況の中で、どこを変えれば演技が変わるのかを見ていけるようになります。
これは、初心者だけの話ではありません。
経験がある人ほど、自分のやり方である程度進めてきた分、見直しにくい場所があります。
一通りやってきた人が、次の段階に進むためには、「もっと頑張る」よりも、「どこを具体的に見るか」を変える必要があることがあります。
7月後半クラスのご案内
7月後半の少人数クラスでは、「もっと深く」と言われた時に、気持ちを足すのではなく、どこを具体的に見れば演技が深まるのかを扱います。
台本読解で事実と状況を広げ、身体・動き・感覚から方法を増やし、セリフやシーンの中で、相手に働きかける形へつなげます。
「もっと気持ち込めて」と言われた時に、気持ちを盛る方向へ迷わなくなる。
「ちゃんと状況想像して」と言われた時に、何を具体的に見ればいいのかが分かるようになる。
読んだことを、身体・声・相手とのやり取りの中で使える形にしていく。
今ある力を、もう少し現場で使える形にしたい方へ。
7月後半クラス
- 7/19(日)13:00〜16:00
身体・動き・感覚を磨き、シーンで使える方法を増やす - 7/20(月祝)13:00〜15:30
セリフを説明で終わらせず、相手に働きかける形へ - 7/25(土)19:00〜22:00
オンライン台本読解
何を具体的に読むべきかが見える - 7/26(日)13:00〜17:30
少人数シーン実践
読んだことを、やり取りで使う
詳細・お申し込みは、こちらをご確認ください。
2026年後半にもう一段伸びたい俳優・歌手へ|7月少人数クラスのご案内
個人レッスンで、今の課題を具体的に見直すこともできます
クラス日程が合わない方や、今取り組んでいる台本、オーディション、現場前の課題を個別に整理したい方は、個人レッスンでも対応しています。
台本の読み方、役の目的、身体の構え、声の出方、相手とのやり取りなど、どこで止まっているのかを一緒に見直し、次の稽古や現場で試せる形に整理します。
年間を通じて現場の合間に、また現場のために準備を整えていきたい方、そこ底力をさせたい方、それなりにやってきたつもりだが、伸び悩んでいる方にもお勧めです。
また、歌手やモデルから俳優の仕事へのキャリアのシフトのチェンジにも対応しております。初歩はもちろん、基礎からプロ、そしていわゆる芸能の一線で活躍する方まで、幅広くそれぞれもテーマや課題に合わせて、カリキュラムを組んでいます。
演技に、個人レッスンって必要ですか?|俳優・歌手・声優の準備を整える時間
クラス案内・個人レッスン・講師依頼について
演技クラス、個人レッスン、教育機関・芸能事務所・映画スクール等での講師依頼については、下記よりご確認ください。
個人レッスンのお申し込み・ご相談はこちらからも受け付けています。
https://forms.gle/Na4Pe383GkxnJaqQ6
教育機関、芸能事務所、制作現場、映画スクール、舞台・映像作品に関する講師依頼やご相談は、下記のお問い合わせフォームよりご連絡ください。
公式LINEについて
クラスや個人レッスンの最新情報、ブログ更新のお知らせ、演技・台本読解・身体と声に関するご案内は、公式LINEでもお届けしています。
お急ぎの方、公式LINEから、次のレッスン情報を早く受け取りたい方、LINEもご利用いただけます。
こちらからのトークのスタートはできませんので、お一言ご挨拶かスタンプお願いします。私の方では、トークの表示がされませんので、お願いいたします。
次回以降のクラス情報を受け取りたい方へ
安全な学びの場づくりについて
当クラスでは、俳優同士がその場の流れや即興判断で、急に身体接触を行うことを禁じています。
身体的接触を含む可能性のある場面は、台本上の必要性、目的、手順、同意、境界線を事前に確認した上で扱います。
安全とハラスメント防止に関する詳細は、以下の固定ページをご確認ください。
この記事を書いた講師
鍬田かおる
演技コーチ/STAT認定アレクサンダー・テクニーク教師/IDC認定インティマシー・コーディネーター(ディレクター)。
俳優、声優、歌手、ダンサーに向けて、台本読解、身体と声、セリフ、相手とのやり取り、現場前の準備を扱うレッスンを行っています。
「もっと深く」と言われるたびに、自分の気持ちが足りないのではないかと責める必要はありません。
必要なのは、努力を否定することではなく、見ている場所を変えることです。
台本のどこを読むのか。
身体のどこが止まっているのか。
セリフがどこで説明になっているのか。
相手に何を働きかけたいのか。
そこを具体的に整理すると、演技は少ずつ手応えも変わってきます。
結果的に、現場もスムーズに、作品に貢献できるようになっていけますよ。
他にもこのような記事を更新しております。
もっと作品を面白くしたい活躍したい歌手や俳優の方、声優やモデルの方のお役に立てますように。
「演技は反応するもの」と信じすぎていませんか?

演技コーチ/ムーヴメント指導・演出・振付/IDC認定インティマシーディレクター/STAT認定アレクサンダー・テクニーク指導者/スピーチ&プレゼンテーションコーチングActing Coach/Movement Direction/IDC qualified Intimacy Director/STAT certified Alexander Technique teacher, mSTAT, Movement Teaching/Speech and Presentation Coaching



