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演技と身体の使い方|「感じなくなる練習」をしてしまっていませんか?

演技と身体の使い方|「感じなくなる練習」をしていませんか?

俳優や歌手は、よく見て、よく聞いて、とっさに感じて動き、しゃべりたい。

ところが、表現を豊かにするために日頃から繰り返している練習が、知らず知らずのうちに「感じなくなる練習」になっているとしたら、どうでしょう?

2026年11月3日に開催した「身体と声」のセミプライベートレッスンで、改めて気になったことがあります。

ご本人にはそんなつもりがないのに、感じにくい身体、とっさに感じて動いたり、よく見て、よく聞いて、しゃべったりすることを難しくしている身体の使い方の癖が、思いのほか強いのです。

特にもったいないと感じたのは、しゃべりにくくしている口、浅すぎる呼吸のパターン、そして、ついつい足してしまう腕の構え。

一生懸命に演技や歌を磨いてきた方ほど、一度考えてみていただきたいことがあります。

自分がよかれと思って繰り返している身体の使い方は、本当に、表現したいことを助けているのでしょうか。

何もしていないつもりでも、身体の中では「小さな騒音」が鳴り続けている

例えば、片手で何か作業をしているとき、反対の腕まで無意識に決まった構えを維持していることがありませんか?

本人は、その腕を特に使っているつもりはありません。けれど、実際にはずっと何かをしています。

しかも、こうした無意識の構えには、驚くほど似通ったパターンが見られるのです。

長年続けてきた身体の使い方は、自分にとって当たり前になっています。そのため、必要のないときにも何かをし続けていることに、なかなか気づけません。

まるで、身体で常に小さな音を鳴らしているよう。

本人はもう、その音が気にならない。むしろ、鳴っていることすら知らない。

ところが、本当に感じたいこと、注意を向けたいことがあるとき、この習慣的な身体の使い方が邪魔をしている場合があります。

俳優や歌手にとって、それは決して小さな問題ではありません。

相手の瞬きも、ドアのノックも、役の人物にとっては大切な出来事

相手のセリフを聞く。相手がほんの一瞬、瞬きをする。ドアをノックする音が聞こえる。

あるいは、実際にはセットの窓の向こうに存在しなくても、役の人物にとっては切実な意味を持つ風景が広がっている。

その景色を見たことで、役の人物の考えや気持ちが変わるかもしれません。相手の何気ない反応を受けて、次にしゃべる言葉も、取る行動も変わるかもしれません。

俳優は、そうした出来事を見て、聞いて、感じ、役の人物として行動したいはずです。

ところが、自分の身体が常に決まった構えや緊張を維持していると、必要なものに注意を向けたり、その場の変化に応じて反応したりすることが難しくなる場合があります。

もちろん、役の人物が緊張したり、身構えたりすることもあります。それも大切な表現です。

問題は、役や状況に応じて選んだ構えなのか、それとも、いつもの自分の身体の使い方を無意識に持ち込んでいるのか、ということです。

役の人物として何を感じ、何に反応するか。その選択肢を、自分自身の習慣によって狭めていないでしょうか。

浅い呼吸が当たり前になると、セリフまで細切れになる

呼吸についても、浅い呼吸のパターンが習慣になっていると、俳優はセリフを必要以上に細切れにしてしまうことがあります。

台本をよく読み、役の目的を考え、言葉の意味を理解していても、実際に声に出したときに、文章の流れが途中で途切れてしまう。

その結果、セリフ全体のリズムやテンポ、作家独特の言葉の運びや文体まで、十分に表現しにくくなってしまう。

これは、俳優にとって大きな損失だと思います。

作品によって、言葉の長さも、文章の組み立ても、リズムも違います。作家が変われば、言葉の世界も変わります。

それなのに、身体に染みついた呼吸のパターンによって、どんな作品でも似たところでセリフが切れたり、いつものテンポになったりしてしまうとしたら、もったいない。

もちろん、短い呼吸や途切れたセリフが必要な場面もあります。問題は、それを選べるか、調節できるかどうかです。

また、呼吸と感情は無関係ではありません。私の指導経験でも、呼吸が浅い状態に固定されていることで、深い感情にアクセスしたり、その場で生まれる感情の変化を受け取ったりすることが難しくなっているように見える場合があります。

ただし、呼吸は深ければよいという話ではありません。深呼吸を繰り返したり、たくさん息を吸おうとしたりすれば解決するとも限りません。

演技や歌唱に必要なのは、その場の出来事や音楽、言葉に応じて、呼吸も声も変化できることではないでしょうか。

はっきりしゃべろうとして、かえってしゃべりにくくしていませんか?

口の使い方にも、同じような問題が見られます。

滑舌をよくしよう、はっきりしゃべろうと努力しているのに、そのために習慣的に行っていることが、かえってしゃべることを難しくしている場合があるのです。

すると、さらに頑張ってしゃべろうとする。

その努力によって、ますます使い方が偏ってしまうこともあります。

声が小さい、滑舌が悪い、セリフが伝わらない。

そうした結果だけを見て、もっと大きな声を出す、もっと明瞭に発音する、と練習を重ねても、肝心の身体の使い方が変わらなければ、同じ問題を繰り返すかもしれません。

ここが変われば、これまで難しかった言葉の運びや声の使い方にも、別の可能性が見えてくることがあります。

演技の練習を重ねるほど、同じ癖まで上達していないでしょうか

演技や歌唱のトレーニングを続けることは大切です。ただ、繰り返していることが、必ずしも望んでいる能力を育てているとは限りません。

身体は、繰り返してきた使い方に慣れていきます。

そのため、よくしようと思って続けてきた練習の中で、必要のない構えや呼吸、声の使い方まで繰り返していたら、それらも習慣として強くなっていく可能性があります。

ここで必要なのは、ただ身体をリラックスさせることでも、正しい姿勢を作ることでもありません。

自分が普段から何をしているのか。それによって、何ができて、何が難しくなっているのかを知ることです。

そして、今まで当たり前だった使い方とは違う選択肢を、実際に身体と声を使いながら経験し、必要な場面で使えるようにしていくこと。

こうした身体の習慣との向き合い方については、関連記事「アレクサンダー・テクニークと身体・声の使い方」でも取り上げています。

「気づいたら直す」では変わらない|身体と声の癖を繰り返さないために

アレクサンダー・テクニークは、こうした習慣的な身体の使い方を見直すうえで、イギリスで2003年に資格を習得してから、私が長年指導に取り入れてきた専門分野の一つです。

俳優や歌手が、身体と声を継続してトレーニングする意味

新しい台本、新しい役、共演者、演出家、指揮者、劇場、撮影現場。

昨日のリハーサルでうまくいったことが、今日も同じようにできるとは限りません。相手の反応も、演出上の要求も変わります。

そんなとき、決めておいた表現を再現することだけに頼らず、目の前で起きていることを受け取り、必要に応じて行動や声を変えられることは、大きな力になります。

そのためには、自分の身体と声について、継続的に学び、観察し、試していく価値があります。

現場で経験を積むことは重要です。

一方で、自分では気づきにくい習慣を見直すために、普段の仕事とは別にトレーニングする時間を持つことにも意味があります。

一つの作品のためだけに身体を調整するのではなく、次の作品でも、その先の仕事でも、自分で気づき、判断し、選び直せるようにする。

そうした継続的な学びについては、「演技に、個人レッスンって必要ですか?」でもお話ししています。

演技に、個人レッスンって必要ですか?|俳優・歌手・声優の準備を整える時間

次の作品で、今までとは違う反応や表現を選べるように

私が個人レッスンで大切にしているのは、俳優や歌手が実際に何をしているのかを観察し、本人が気づきにくい習慣や、表現を難しくしている要因を一緒に見極めて、使いやすくしていく実践です。

身体や呼吸、声、台本読解、役の目的、相手とのやり取りを切り離さず、現在取り組んでいる仕事や課題に合わせて扱っています。

個人レッスンは、毎週決まった曜日に通うスクール型ではありません。稽古、公演、撮影、オーディションなど、ご自身の仕事のサイクルに合わせて、必要な課題に取り組み、継続的に表現を磨いていくことができます。

今の身体と声の使い方を一度専門的に見直したい方、これからの作品や仕事に向けて表現の幅を広げたい方は、個人レッスンをご活用ください。

演技・身体と声の個人レッスンを申し込む

現在取り組んでいる作品や、見直したい課題があれば、お申し込み時にお知らせください。

11月の演技クラスと、今後のご案内

2026年11月20日(金)にはオンライン台本読解、11月22日(日)には少人数制スタジオ実践のクラスを予定しています。

長いセリフやモノローグを、自分ごとの言葉としてしゃべり、演じるための準備を扱います。

今回の記事で触れたセリフの流れやテンポ、作家の言葉を演技につなげることに関心のある方は、11月の演技クラスの詳細・お申し込みはこちらをご覧ください。

2026年11月20日・22日|演技クラス・オンライン台本読解と少人数スタジオ実践|長いセリフを自分ごとでしゃべる

募集状況や受講条件は、最新の案内をご確認ください。

今後のクラスの開催情報や募集のお知らせを受け取りたい方は、鍬田かおる公式LINEにご登録ください。

また、Instagram(演技指導アカウント)でも、俳優や歌手の演技、身体と声、台本読解について発信しています。

この記事を書いた講師|鍬田かおる

演技コーチ/英国STAT認定アレクサンダー・テクニーク教師

20年以上にわたり、俳優・歌手・声優・ダンサーなど、身体と声を使って表現する方々の指導に携わる。

ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ及び、ロイヤル・セントラル・スクール・オブ・スピーチ&ドラマ修士課程卒業。

新国立劇場演劇研修所及び同オペラ研修所、劇団青年座研究所、桐朋学園芸術短期大学など、演劇・音楽の専門教育機関で指導。芸能事務所や映画スクール、大学などでも演技、ムーヴメント、身体と声の指導を展開してきました。

英国でアレクサンダー・テクニークの正規教師資格を取得。2010年には、創始者F・M・アレクサンダーの著書『The Use of the Self』を日本語に初めて翻訳し、『自分のつかい方』(晩成書房)として出版。

身体の使い方、呼吸、声、台本読解、役としての行動を総合的に扱い、実際の舞台や映像、歌唱の現場で使える表現力の育成に取り組んでいる。

また、IDC認定インティマシー・コーディネーター(映像)/インティマシー・ディレクター(舞台)としても活動。

鍬田かおるの詳しいプロフィールはこちら

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