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役の目的・目標を考えても芝居が動かない理由|台本読解を演技につなげるには

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演技コーチ鍬田かおるによる演技レッスンの様子。相手とのやり取りを実践する場面

演出家から「もっと相手を見て」「もう少し変化がほしい」と言われる。

言われていることは分かる。

何を指摘されているのかも、なんとなくピンとくる。監督や演出家が使ったキーワードを聞いて、「ああ、そういうことか」と納得することもあるでしょう。

私もずっとそうでした。

ところが、もう一度演じてみると、何をどう変えたらいいのか分からない。結局、いつもの声、いつものテンポ、いつもの表情に戻ってしまう。

ダメ出しの意味が分かることと、その場で実際に違う行動を選べることには、かなりの距離があります。

役の目的や目標を考えるときにも、同じようなことが起こります。

台本を読み、人物の背景を調べ、シーンの目標まで考えた。それでも演技が変わらないなら、準備の中で考えたことが、どこまで実際の行動につながっているのかを見直す余地がありそうです。

役の目的・目標は分かった。それで、何ができるようになりましたか?

演技を学んできた方なら、「役の目的」「シーンの目標」という言葉を聞いたことがあるでしょう。

その人物が何を望んでいるのか。

この場面で何を達成したいのか。

こうしたことを考えるのは大切ですし、私自身、台本読解のクラスでも繰り返し扱っています。

ところが、目的と目標をノートに書き出したところで、なんとなく準備が終わった気になってしまうことがあります。

「この人物は相手に認められたいんです」

「このシーンでは相手を説得したいと思っています」

なるほど。

では、実際に演じてみましょう。

……となった途端、声を強くするのか、どこで間を取るのか、どういう表情をするのかと、いつもの演技プランを考え始めてしまう。

この誘惑には打ち勝ちたい。(笑)

なぜって、ここが、しらじらしい演技や、いかにもな表情、嘘っぽい動きとの分かれ目になるからです。

自分の役については詳しく説明できても、相手役が目の前に現れた途端、準備したことが十分に使えなくなる場合もあります。

せっかく時間をかけて考えたのですから、説明できるようになっただけでは、もったいないですよね。

その目的や目標を考えたことで、実際の行動にどんな選択肢が増えたのでしょうか。

演出家のダメ出しを理解しても、芝居が変わらない理由

「もっと自然に」

「相手の言葉をちゃんと聞いて」

「もう少し緊張感がほしい」

「そのセリフ、もっと切実に」

稽古場や撮影現場では、こうした言葉が飛び交います。

演出家や監督が何を求めているのかを理解しようとすることは、もちろん重要です。

ただ、その言葉に納得できたことと、自分が実際に何を変えられるかは別の問題です。

例えば「緊張感」という言葉を聞いて、俳優同士で同じイメージを共有しているとは限りません。

演出家が思い描いていることとも、違うかもしれません。

そのまま「緊張感のある演技」をしようとしても、声を硬くしたり、身体に力を入れたりするだけで終わってしまうことがあります。

シーンで実際に起きていることや相手とのやり取りが曖昧なままでは、表現の調子だけを調整しても、芝居が十分に変わらないことがあります。

だからこそ、ダメ出しの言葉が理解できたかどうかに加えて、その言葉によって自分が何をできるようになったかを確かめたいのです。

演技の指導と言葉の関係については、以前の記事

感想を言うことは、指導ではない|演技が行き詰まる本当の原因

 

でも取り上げています。

熱心に書き取った言葉は、そのまま演技に使えるでしょうか

熱心な俳優ほど、演出家や監督から言われたことを、細かくメモに残している場合があります。

稽古が終わってからノートを読み返し、指摘されたことを忘れないようにする。次に同じことを言われないように、しっかり覚えようとする。

それ自体は悪い習慣ではありません。記録を残すことで、後から振り返りやすくなることもあります。

ただ、書き取った言葉をそのまま覚えておけば、次に同じことができるでしょうか。

言葉を聞いて意味が分かる。説明を受けて納得する。ここまでは、大人の学習者なら比較的スムーズに進むこともあるでしょう。

しかし、書き取ることに夢中になる前に、今の言葉を自分が実際に使えるのかどうか、少し立ち止まって考えることも必要でしょう。

ノートに書かれた言葉が増えているのに、できることが増えていない。

そんな状態になっていないか、一度振り返ってみていただきたいと思います。

台本の構造を、俳優が動ける言葉に翻訳する

私が演技指導で大切にしているのは、台本の構造を、俳優が動ける言葉に翻訳することです。

俳優が何を理解しているのか、何を見落としているのか、実際に演じたときにどんなことが起きているのか。

同じ台本を読んでも、つまずくところは俳優によって違います。経験も、理解の仕方も、それまでに身につけてきた身体や声の習慣も異なりますから、当然です。

だからこそ、私は特定のメソッドを全員に同じように当てはめることよりも、目の前の俳優をよく見ることを大切にしています。

その俳優が何をできるようになる必要があるのか。実際の声や身体、相手への働きかけに、どのような変化が生まれるのか。

説明を増やしただけでは、必ずしも新しいことができるようにはなりません。

そして、実際の演技には、頭で考えているときとは違う速度や密度が求められます。

映画や舞台のシーンでは、普段の生活なら何日もかけて起こるような変化が、限られた時間の中に凝縮されていることもあります。

セリフを言うことだけでも、準備してきた気持ちを表現することだけでも、追いつかない場合があります。

だから、頭で分かったことを、身体が動く言葉に変える。そこを丁寧に扱う必要があると考えています。

現実の人間に、どれくらい興味を持っていますか?

もう一つ、演技のトレーニングを考えるうえで、私が大切にしていることがあります。

それは、現実の人間にものすごく興味を持つことです。

「人間観察をしましょう」と言うと、街ですれ違う誰かを見て、性格を想像したり、どんなタイプかを考えたりすることを思い浮かべるかもしれません。

けれども、私が面白いと感じるのは、もっと細かなところです。

身近な誰かの、いつもと少し違う言葉の選び方。予想していなかった反応。よく知っているつもりだった相手の、今まで気づかなかった一面。

普段から何気なく接している相手でも、関心を持ってみると、驚くほど面白いことが起きています。

「あの方はこういう性格だから」と決めつけてしまうのは簡単です。

でも、そうやって片づけずに、もう少し興味津々でいる。自分とは違う考え方や行動に出会ったときにも、面白がってみる。

そうした時間が、俳優の想像力を育てる材料になると私は考えています。

現実の人間についての興味が深まると、そこからの想像や類推も豊かになり、フィクションの世界を考える際にも生かせることがあります。

台本の中の人物を考える材料は、演技の教科書の中だけにあるわけではありません。

日常の中にも、いくらでも発見できることがあるはずです。

一人でできるようになっていますか?

これまで参加したクラスやワークショップで、印象に残っている発見がある方も多いと思います。

講師の説明で急に腑に落ちたこと。実際に演じてみたら、今まで経験したことのない反応が生まれたこと。自分でも驚くほど演技が変わったこと。

そうした経験は、大切にしていただきたいと思います。

ただ、私がさらに確かめたいのは、それが自分のものになっているかどうかです。

数週間、数か月が経ち、別の台本を渡されたときにも使えるでしょうか。

限られた時間の中で準備しなければならないとき、自分で必要な判断ができるでしょうか。

相手から予想外の反応が返ってきたときにも、いつもの演技プランに戻らず、そこで起きていることに関わり続けられるでしょうか。

「知った」と「できる」の間には、距離があります。

そして、一度できたことを、必要なときにもう一度できるかどうかにも、まだ差があります。

クラスの中で講師に助けられながらできたことを、次の作品で自分一人でも使えるようにする。

そのためには、繰り返し試し、振り返り、必要なところに負荷をかけながら、少しずつ自分の判断力を育てていく時間が必要です。

仕事と仕事の間にも、演技のトレーニングは続けられます

演技の仕事には、忙しい時期もあれば、次の出演まで少し時間が空く時期もあります。

現場が続いているときには、その作品に必要な準備があります。

一方、特定の役や本番に追われていない時期には、普段の習慣を見直したり、今まで十分に扱えなかった課題に取り組んだりする時間も作れます。

もちろん、自分一人で取り組むことも大切です。

ただ、慣れた方法ばかりを繰り返していないか、苦手なところを無意識に避けていないか、自分では気づきにくいものです。

かといって、何でも難しくすればよいわけでもありません。

今の自分に必要な負荷をかけながら、実際にできることを増やしていく。そのために、私は年間を通じて演技クラスや個人レッスン、継続的なコーチングを行っています。

今すぐ出演予定がない時期にも、台本読解、相手とのやり取り、身体や声の使い方など、取り組めることはたくさんあります。

次のチャンスが来たとき、これまでの経験やトレーニングを生かせるように準備しておきたいですね。

個別の課題を継続して見直す意味については、

演技に、個人レッスンって必要ですか?|俳優・歌手・声優の準備を整える時間

こちらで詳しく紹介しています。

10月18日(日)|演じるための台本読解「シーンの鉄則」

2026年10月18日(日)18:30〜22:00に、オンラインで「演じるための台本読解・シーンの鉄則」のクラスを行います。

役についてたくさん考えてきたのに、実際に演じると何をしているのか分からなくなる方。目的や目標を考えることには慣れていても、それが相手とのやり取りになかなかつながらない方。

今回のクラスでは、シーン全体を捉え、実際に演じるための準備を考えていきます。

これまでに台本読解を学んできた方にも、初めて参加される方にも取り組んでいただける内容です。

また、翌10月19日(月)13:00〜15:45には、オンラインで考えたことを実際に演じる、少人数制のスタジオ実践も行います。

スタジオ実践は、18日のオンライン受講者が対象です。

10月18日(日)オンライン台本読解
18:30〜22:00
参加費:10,000円

10月18日(日)+19日(月)オンライン・スタジオ実践
2日間:22,000円

オンラインのみの参加についても、遠方・海外在住などスタジオ参加が難しい事情のある方はご相談いただけます。

今週末のご参加を検討されている方は、募集ページで詳細と受付状況をご確認のうえ、お早めにお申し込みください。

10月18日・19日|演技クラス詳細・お申し込みはこちら

11月以降は、身体と声の習慣も見直していきましょう

台本を理解しているのに、なぜか芝居が変わらない。その背景には、身体や声の習慣が関係していることもあります。

頭では違うことをしようと思っているのに、声はいつもの調子に戻ってしまう。相手の反応を受け取ろうとしているのに、身体が先回りしてしまう。

そうしたことは、普段のトレーニングで扱っていける課題でもあります。

11月3日(火・祝)には、身体と声のセミプライベートレッスンを予定しています。

自分の身体が普段どんな習慣を持っているのか、必要に応じて違う使い方を選べるか。こうしたことを少人数で実際に試していきます。

身体の使い方と演技・声の関係については、「アレクサンダーテクニークとは?演技と歌を変える身体の使い方」でも紹介しています。

11月以降も、台本読解や身体と声、演技実践のクラスを通じて、継続的に力を育てていく機会を設けています。

今回の日程が合わなかった方も、しばらくトレーニングから離れていた方も、次の機会に向けて取り組みを再開してみませんか。

演技クラス・個人レッスンのご案内はこちら

今の自分の演技を、個人レッスンで見直したい方へ

現在取り組んでいる台本、出演予定の作品、オーディション、撮影や稽古に向けた準備など、具体的な課題を扱いたい方には、下北沢で個人レッスンも行っています。

同じように「芝居が動かない」と感じていても、どこで止まっているのかは俳優によって異なります。

台本の読み方、役の目的や目標、相手との関係、身体と声。現在のご自身の演技を見ながら、必要なところに取り組んでいきます。

これまでいろいろな演技クラスやワークショップで学んできた方にも、今までの経験を生かしながら、新しい選択肢を増やしていただきたいと思います。

個人レッスンの詳しい内容や、ご自身の予定に合わせた継続の仕方については、個人レッスンの紹介記事をご覧ください。

ご希望の方は、現在の活動内容、気になっている課題、今後の出演やオーディションの予定などを添えてお問い合わせください。

個人レッスンの詳細・お問い合わせはこちら

演出家から言われたことを理解できた。役の目的も考えた。シーンについても説明できる。

それなら、次は実際に何ができるようになったのかを確かめたいところです。

台本の構造を、俳優が動ける言葉へ。

一度分かったことを、次の作品でも自分で判断して使える力へと育てていきましょう。

この記事を書いた講師

鍬田かおる

演技コーチ/STAT認定アレクサンダー・テクニーク教師/IDC認定インティマシー・ディレクター(舞台)・インティマシー・コーディネーター(映像)。

指導歴20年以上。英国Goldsmiths, University of Londonで演劇を学び、Royal Central School of Speech and Drama大学院で修士号を取得。

俳優、声優、歌手、ダンサーなどに向けて、台本読解、演技実践、身体と声のトレーニングを指導。芸能事務所、教育機関、舞台・映像などでも活動している。

 

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