台本読解のよくある大きな勘違いシリーズ 番外編2
方法を目的にしているうちは、演技はその場しのぎになりやすいです。
これ、私も実は注意されていました。
でも、その当時は全然ピンとこなくて…
一つのシーンでは感情も出る。
セリフも言えている。
その場の反応もある。
瞬間的には、悪くない。
それでも、次のシーンにつながらない。
作品全体で見ると、人物が展開していない。
場面は動いているのに、人物の旅が進んでいない。
いわば、シーンを展開させる推進力がない。
こういうことは、決して珍しくありません。
原因は、技術が足りないことだけではありません。
セリフ、感情、間、動き、分析といった「方法」が、いつの間にか目的になってしまっていることがあります。
本来は、目的があり、目標があり、そのために方法がある。
この記事では、演技がその場しのぎになってしまう理由を、目的、目標、方法の違いから整理していきます。
台本読解シリーズを初めて読む方は、まず第1回の記事から読むと、今回の内容がより整理しやすくなります。
台本を5W1Hで読んでいるうちは、演技が浅くなりやすい理由
https://kaorukuwata.com/script-reading-5w1h-mistake/
現実の会話でも、方法が目的になることがあります
本当は、相手と話し合いたかった。
誤解を解きたかった。
距離を縮めたかった。
これからどうするかを一緒に考えたかった。
そのために、話をするはずだった。
ところが、いつの間にか「話すこと」そのものが目的になってしまうことがあります。
さらに進むと、自分の正しさを証明することや、相手を論破することが目的になってしまう。
そうなると、たとえ言っている内容が正しくても、最初に望んでいた関係には近づきません。
話すことは、本来は方法です。
その会話を通じて、相手とどうなりたいのか。
何を伝えたいのか。
何を変えたいのか。
そこが抜けると、会話はずれていきます。
演技でも、同じことが起きます。
方法を目的にしているうちは、演技はその場しのぎになります
演技の準備でも、方法が目的にすり替わることがあります。
セリフをうまく言う。
感情を出す。
リアルに見せる。
間を取る。
身体を動かす。
台本を分析する。
どれも大切です。
でも、それらは本来、目的地ではありません。
大事なセリフが終わって、ついホッととしてしまったこと、
若かりしころの私もありました。
セリフも、感情も、間も、動きも、分析も、すべては何かに向かうための方法です。
それを使って、相手に何を起こすのか。
そのシーンで、何を変えたいのか。
作品全体の中で、人物はどこへ向かっているのか。
それにもかかわらず、キーワードのセリフを、つい大事そうに言ったり、
何度も繰り返し稽古したところを「がんばって」しまう。
こうやって、本来は、方法を1つ使っただけなのに、安心したり、満足してしまうと、目標を通過するのを忘れます。
目的に向かっていたという大枠で考えたときの、全体像が抜けたまま
方法だけを磨くと、演技は一見動いているように見えても、どこへ向かっているのかが見えにくくなります。
その場は成立しても、作品全体では展開しないことがあります
方法を目的にしてしまう演技は、必ずしもその場で破綻するわけではありません。
むしろ、一つのシーンだけを見ると、それなりに成立しているように見えることがあります。
感情が出ている。
盛り上がっている。
勢いがある。
笑いも取れている。
その場の反応もある。
だから、本人も周りも「できている」と思いやすいのです。
でも、次のシーンに進むと、急に脈絡がなくなることがあります。
さっきの人物と、今の人物がつながって見えない。
感情の流れが積み上がっていない。もしくは一辺倒。
行動の理由が続いていない。伝わっていたはずが、ちょっとずつ、「なぜなのか」の設定が曖昧になっていく…
場面ごとにキャラクターやバックグラウンドが変わって見える。
舞台では、1時間の作品なのに、人物が本当には変化していないことがあります。
いくつかの場面が並んでいるだけで、スケッチが何枚か置かれているように見える。
映像でも同じです。
その場その場には、良い瞬間がある。
生き生きとした表情がある。
タイミングやリズムの面白いやり取りがある。
編集によって、さらに魅力的に見える瞬間もあります。
でも、何話も続けて見たり、2時間の作品として見たりすると、実は人物が展開していないことがわかる。
これは、演技の技術がまったくないという話ではありません。
むしろ、瞬間を成立させる力はある。
ただ、その方法が、人物の目的や変化に結びついていないのです。
だから、その場は良くても、流れにならない。
場面は成立しても、人物が動かない。
ここに、方法を目的にしてしまう演技の怖さがあります。
いわば、点があるだけに近いです。
目的、目標、方法の違いをバスの路線で考える
目的、目標、方法の違いは、バスの路線で考えると少し見えやすくなります。
目的は、バスの終点です。
その人物が、作品全体を通してどこへ向かっているのか。
目標は、その途中にあるバス停です。
終点へ向かうために、ある区間で到達しなければならない地点です。
渡書き、セリフ、様々なポイントがあります。
方法は、そのバス停にたどり着くために使うものです。
道中で見える信号、電柱、お店、建物。
聞こえてくる音。
通る道。
曲がる角。
速度の変化。
それらは進むためには必要ですが、目的地そのものではありません。
演技でも同じです。
視線から顔の表情へ、セリフ、感情、間、動き、沈黙、リズム、ジェスチャー…
どれも必要です。
でも、それらはみな方法をつかったときに現れる結果の要素です。
どこで、いつ、どの方法を使って、どの目標に向かっているのか。
今、どの目標を通過して、次の目標は何なのか。その目標は、作品全体のどの目的地へつながっているのか。
ここが見えていないと、ただ方法だけが上手になっても、残念なことに、人物の流れは作れません。
作品によっては、伏線が回収されないことも。
また、台本次第では、大事なキーワードはちりばめられているけれど、それが何だったのかがわからないということが、あり得ます。
作品には、複数の路線が走っています
ただし、作品の中を走っているのは、一つの路線だけではありません。
①思考の路線があります。
およそセリフにも現れている本人の理屈、本人が自覚できている部分も含まれる判断、言葉で整理している流れです。
②感情の路線があります。
欲求、反応、心理、傷つき、期待、恐れの流れです。これは必ずしも本人が自覚してない部分も含まれます。
③身体の路線があります。
これはものすごく物理的なこと。
例えば、距離、姿勢、呼吸、緊張、動き、止まること、相手に向かうことの流れです。
もう一つ解説すると④関係性の路線もあります。
相手との距離、上下関係、親密さ、警戒、支配、依存、拒絶、和解の流れです。
シーンそのものの変化といっても良いでしょう。
俳優は、その複数の路線を見ながら、今どこにいて、どこへ向かっているのかを考える必要があります。
だから、一つのシーンだけですごく感情が出た、実感があった、
あの難しいセリフがうまく言えた、何度もうまく笑いが取れたとしても、それだけではまだ足りません。
それがどの路線のどのバス停なのか。
そして、そのバス停が、作品全体の終点に向かっているのか。
ここが見えていないと、演技はその場その場の処理になってしまいます。
小さい単位の目的は、上の単位では目標になります
演技の準備で難しいのは、目的、目標、方法が固定された言葉ではなく、見る単位によって役割が変わることです。
一つのシーンの中では、「相手を引き止める」ことが目的かもしれません。
でも、作品全体や一幕全体で見れば、それは大きな目的地へ向かうための一つの目標になります。
つまり、シーンの中では目的だったものが、上の単位に上がると目標になる。
例えば、
私は立ってドアを開けて駅へ向かうために歩いて行く。
この数分の間のシーンでは、電車に乗ることが目的。
駅が目標。
荷物を持って歩くのが方法、行動は、信号を待って、横断歩道を渡るといった移動です。
しかしながら、もう少しスケールを大きく、時間軸も幅広く取ってみると、
電車は方法です。
友達に会うことが実は目標になります。
そして一緒に映画を見ることが実は目的、のような気がしますが、それも実は目標。
実際には、久しぶりにお互いの近況を語ったり、労を労ったり、励ましあったり、お互いの健康を祝ったりすることが目的だったりします。
現実の世界で考えると、イメージしやすくないでしょうか。
この構造が見えていないと、俳優は一つひとつのシーンだけを成立させようとしてしまいます。
その場では感情も出るし、やり取りも起きている。
気持ちが動いていれば、なおさら、それで成立しているような気がしてしまう。
でも、次のシーンや作品全体に向かって、その出来事がどう働いているのかが見えない。
だから、場面は動いているのに、人物の旅が進んでいないように見えるのです。
時間の経過や関係性によって、何が変わったのかその影響が見えにくく、伝わりにくくなってしまいます。
台本読解は、方法を増やすためだけのものではありません
台本読解は、セリフの言い方を決めるためだけのものではありません。
感情を探すためだけのものでもありません。
リアルに見せるための工夫を探すだけのものでもありません。
台本読解は、人物がどこへ向かっているのかを見るためにあります。
今いる場所。
次に到達する場所。
最終的に向かっている場所。
その路線図を見ずに、方法だけを増やしても、演技は深まりにくくなります。
前回の記事「セリフは結果であって、原因ではない」でも書いたように、セリフは先に飾りつけるものではありません。
なぜその言葉が必要になるのか。
その言葉が出てくる前に、何が起きているのか。
その言葉を使って、相手に何を起こそうとしているのか。
そこを読まずに、言い方だけを整えても、言葉は生きにくくなります。
そして今回の話で言えば、そのセリフもまた、方法の一つです。
目的地ではありません。
セリフは結果であって、原因ではない
https://kaorukuwata.com/lines-are-results-not-causes/
5W1Hで埋めても、路線図が見えていないことがあります
このシリーズの最初の記事では、「台本を5W1Hで読んでいるうちは、演技が浅くなりやすい理由」を書きました。
5W1Hそのものが悪いわけではありません。
ただ、いつ、どこ、誰、何を、なぜ、どのように、を埋めることが目的になってしまうと、演技にはつながりにくくなります。
項目を埋めることは、方法です。
大切なのは、それによって何が見えるようになるかです。
人物は、どこへ向かっているのか。
このシーンでは、どのバス停に向かっているのか。
そのために、今どの方法を使っているのか。
そこまでつながって初めて、読解は演技の準備になります。
台本を5W1Hで読んでいるうちは、演技が浅くなりやすい理由
https://kaorukuwata.com/script-reading-5w1h-mistake/
方法が目的地になると、相手が消えていきます
方法を目的にしてしまうと、意識は自分の処理に向きやすくなります。
うまく言えているか。
ちゃんと泣けているか。
自然に見えているか。
間が取れているか。
分析が合っているか。
もちろん、どれも無関係ではありません。
でも、そればかりになった瞬間、相手が消えていきます。
これは本当にもったいないです。
なぜなら、相手あっての自分だから。
本来は、相手に何かを起こすためにセリフを使う。
相手との距離を変えるために動く。
相手の反応を受けて、次の行動が変わる。
そのはずです。
ところが、方法を目的にしてしまうと、相手とのやり取りではなく、自分が何を出せたかの確認になってしまう。
それでは、場面は動いているように見えても、人物の関係は深まりにくくなります。
方法は必要です。でも、方法は目的地ではありません
方法は必要です。
セリフの扱いも必要です。
感情の準備も必要です。
身体の使い方も必要です。
間の感覚も必要です。
台本を読む力も必要です。
でも、方法は目的地ではありません。
目的があり、目標があり、そのために方法がある。
この順番が見えると、演技の準備は変わります。
一つのシーンをどう盛り上げるかではなく、このシーンで何を達成する必要があるのかが見えてくる。
セリフをどう言うかではなく、なぜその言葉が必要になるのかを考えられる。
感情をどう出すかではなく、その感情がどの路線のどの地点で起きているのかを見られる。
そうすると、演技はその場しのぎではなく、作品全体の流れの中で展開していきます。
私の演技のクラスでは、方法を目的地にしない読み方を扱います
演じるための台本読解クラスでは、台本を国語としての解釈や全体像を掴むために読むだけではなく、演技につながる形で整理していきます。
セリフをどう言うかに急がず、まず何が起きているのかを見る。
感情を決めつける前に、人物がどこへ向かっているのかを見る。
一つのシーンだけでなく、そのシーンが作品全体のどこにあるのかを考える。
その順番を踏むことで、場面ごとの勢いや感情だけに頼らず、相手とのやり取りに向かいやすくなります。
目的、目標、方法の違いが見えてくると、台本の読み方はかなり変わります。
何を準備すればいいのか。
どこで迷っていたのか。
なぜセリフや感情だけでは足りなかったのか。
その整理ができると、演技はもう少し落ち着いて組み立てやすくなります。
方法を増やす前に、どこへ向かっているのかを見る。
こうやって整理していくから、安心してチャレンジも、慣れない状況にも飛び込めます。
そして、無事帰ってくることができる。
この成功体験を通じて、生き生きとしていく方が多いです。
そこから、演技はどんどん変わり始めます。
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この記事を書いた講師:プロフィール 鍬田かおる
指導歴20年以上。俳優や歌手の個人レッスンのほか、桐朋学園芸術短期大学演劇科、新国立劇場演劇研修所・オペラ研修所、劇団青年座研究所などで長年指導経験を経て、芸能事務所、映画スクールでも指導する。
ロンドン大学ゴールドスミス校卒。Royal Central School of Speech and Drama 修士課程ムーヴメント科卒業。
イギリスSTAT認定アレクサンダー・テクニーク教師。日本演出者協会会員。
俳優や歌手の技術と身体の理解を統合し、現場で使える“交流のある演技”へ導く専門家。
大学講師を務める傍ら、個人レッスンで一人ひとりの強みを伸ばし、基礎力からアップさせる本格的なプロのトレーニングを中心に活動しています。
小学生から中堅、そして芸能の舞台や映像で活躍する俳優や歌手の方のアクティングコーチであるだけでなく、プロを目指す若手の育成も務める。
IDC認定インティマシー・コーディネータ(ディレクター)としてテレビや映画、舞台公演の現場やリハーサルにも入ります。
これまで触れてきた演技のなんとかメソッドや、〇〇式に疑問を抱かれた方へ
あなたの違和感は、もしかすると「役」にとってのリアリティーではなかったからかもしれません。
また文化的にも、ヨーロッパで過ごした20代がある私、そしてバイリンガルである私が言うのもなんですが、日本を中心に活躍してらっしゃる方、日本語を母国語として多くの時間を過ごしてる方に向き不向きという傾向はある気がいたします。
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