「どんなふうに」を優先するほど、演技は安っぽくなる
台本を読んでいると、多くの俳優や歌手が無意識にやってしまうことがあります。
それは、どんなふうに演じるかを先に決めることです。
どんな表情で。
どんな声色で。
どんなテンポで。
どんな歩き方で。
どんな空気でその場にいるのか。
つい、イメージが膨らんでしまいませんか。
でも、それはお客様目線のスタートでもあり、先回りかもしれません。
一見、どんなふうに、どのようにを膨らましていくと、ちゃんと準備しているように感じます。
ともすると、稽古場で、全員がそのようにやっていると可能性も見えます。
でも、ここを先に決めるほど、芝居はなんとなくしらじらしく、安っぽくなりやすいのです。
先に決めたくなるのは、いちばん外側です
台本を受け取ると、早く全体をつかみたくなります。
自分はどこにいて、どんな状況で、どんなふうにこのセリフを言うのか。
早くイメージしたい。
早く立ち上げたい。
早くわかった感じになりたい。
そのとき、いちばん先に入り込みやすいのが、外側です。
どんなふうに扉から入ってくるのか。
どんな顔で相手を見るのか。
どんな調子でその言葉を言うのか。
でも、ここが危ないのです。
当事者目線になっていないことだけではなく、順番がおかしい。
どんなふうに演じるかを先に決めると、役ではなく自分の演出案になります
本来、その人物がどう動くか、どう話すかは、先に見た目だけで決められるものではありません。
相手が自分にとって何者なのか。
今ここで何をしてもらわないと困るのか。
それをしなければ何が起きるのか。
この場面で何が変わると大きいのか。
そういうことが見えてはじめて、言い方や身体のあり方は絞られていきます。
ところが、そこを飛ばして先にどんなふうに演じるかを置くと、役の人物として反応しているのではなく、自分の中で考えた演出案を再生することになります。
それは準備しているようでいて、実はかなり危うい状態です。
落ち着いて、論理的に考えましょう。
現実の生活では、外側から先に決めていません
これは現実の生活で考えるとわかりやすいです。
駅までどんな様子で歩いていこうかな。
どんな手の動きでドアを開けようかな。
この嬉しい知らせを、どんな声色で友達に伝えようかな。
そんなふうに、外から自分を見て先に決めつけていることは、通常、何か特定の演出が必要とされる場面、儀式、何らかのパフォーマンス以外では、あまりありません。(嘘をついていて隠すということはあり得ます)
このように、現実の順番は違います。
例えば、
自分が、自分にとっての誰に、会うのか。
それは何のために会うのか。
何を、いつまでに伝えないといけないのか。
伝えなかったら何が起きるのか。それはなぜなのか。
その相手が自分にとってどういう存在なのか。
もちろん、逆方向も存在します。
まずそこがあります。
人は、そこがあるから動きます。
先に準備したいのは、「演じ方」ではなく状況と必要性です
台本読解で先に準備したいのは、「どんな表情」「どんな声か」ではありません。
どこにいるのか。
誰に向かっているのか。
何のためにその場にいるのか。
相手に何をしたいのか。
それをしないと何が起きるのか。
つまり、状況とバックグラウンド、そして大きな柱である「必要性」や「緊急性」です。
ここが見えていないのに、どんなふうに演じるかを先に決めると、俯瞰しやすくなります。
すると、描写だけは一丁前になりやすいのです。
何のためかわからないけれど冷たい視線。
何が変わるのか見えていないのに忙しそうな口調。
相手との関係が曖昧なのに意味ありげな間。
こういう芝居は、本人は準備した感じがあっても、観ている側には安っぽく見えやすいです。
安っぽい芝居は、感情不足ではなく外側の作りすぎで起こります
安っぽさは、感情不足だけで起きるわけではありません。
むしろ、外側を先に作りすぎたときに起きやすいです。
強く言おうとする。
冷たく見せようとする。
弱々しく見せようとする。
怖く見せようとする。
こうなると、相手とのやり取りよりも、自分がどう見えているかのほうに意識が向きます。
その瞬間、芝居は外側から固まり始めます。
結果として、相手の言葉に反応しているようで、実は最初に決めたプランをなぞっているだけになりやすいのです。
そして、イメージ通りでないと、驚いたり、がっかりもします。
そこでどんどん対応していければ良いのですが、何して結果を先に決めてしまっているので、苦しくなっています。
何のためにそれをするのかが見えないと、演じ方は空回りします
たとえば、同じ「もういい」というセリフでも、
本当に終わらせたいのか。
相手を止めたいのか。
これ以上続けると自分が崩れるのか。
本当は引き止めたいのに逆の言葉が出ているのか。
何が起きていて、何を変えたいのかによって、立ち上がる演じ方は変わります。
にもかかわらず、最初から低い声で、冷たく、目を合わせずに言う、と決めてしまえば、そのあとの読解もそのイメージに引っ張られてしまいます。
これが、演じ方を先に決める怖さです。
そもそも、先に「こんなふうに優しげな口調で」とか「こういうしかめっつらを」も実行が難しい。
「優しい人」「朗らかな様子で」をただ実行できないのと同じです。
真面目な俳優や歌手ほど、ここで止まりやすいです
これは雑な方というよりも、むしろ真面目な俳優に起こりやすいです。
ちゃんと準備したい。
ちゃんと役をつかみたい。
ちゃんとイメージして現場に行きたい。
そう思うほど、見た目や言い方を早く整えたくなります。
迷惑をかけちゃいけない、待たせてはいけない…
でも、その誠実さが、そのまま遠回りになることがあります。
早く形にしようとするほど、まだ柱が立っていないのに、見えていないものまで決めてしまうからです。
結果として、台本を読んでいるのに、相手とのやり取りより、自分の作った芝居に閉じこもりやすくなります。
足りていないのは演じ方ではなく、理由のほうかもしれません
芝居が薄いと感じたとき、多くの俳優はもっと外側を足そうとします。
もっと表情をつける。
もっと声に変化をつける。
もっと間を工夫する。
もっと雰囲気を作る。
でも、足りていないのは外側ではないことが多いです。
足りていないのは、なぜ今それを言うのか、なぜその相手なのか、なぜ今ここで変えたいのか、なぜそれがこの人物にとってそんなに重要なのか、という部分です。
ここが立てば、どんなふうに演じるかは結果として絞られていきます。
演じ方は最後に立ち上がるものです
ここはとても大事です。
演じ方は不要なのではありません。
順番が違うのです。
先に作るものではなく、最後に立ち上がるものです。
相手との関係が見えた。
状況が見えた。
必要性が見えた。
変えたいことが見えた。
そこまで来てはじめて、その人物らしい声の出方、目線、距離感、テンポが見えてきます。
だから、どんなふうに演じるかは先に決めません。
最後に見えてくるものです。
浅さや気になる表面的な感じは、才能の問題ではなく順番の問題かも
台本を読んでいるのに安っぽくなる。
考えているのにやり取りが生きない。
準備しているのに、どこか作り物っぽい。
そういうとき、能力不足だと思ってしまう人がいます。
でも、そうではなく、順番の問題であることが少なくありません。
どんなふうに演じるかを先に決めてしまう。
まだ見えていないものを、見えたつもりで固めてしまう。
だから、相手とのあいだで動かなくなる。
ここを見直すだけでも、台本読解はかなり変わります。
まとめ
どんなふうに演じるかを先に決めるほど、芝居は安っぽくなりやすいです。
どんなふうに言うか。
どんな表情でいるか。
どんな調子で動くか。
そこを早く決めたくなる気持ちは自然です。
でも、それを先に置くと、役として反応するより、自分の演出案を再生する方向に進みやすくなります。
先に必要なのは、状況、関係、必要性、そしてその人物にとっての理由です。
演じ方は最後に立ち上がるものです。
次の記事では
次は、なぜ/ Whyを考えているのに、芝居が立ち上がらない理由について書きます。
いわゆる「目的」を考えているのに、なぜやり取りが生きてこないのか。
そのとき見落とされやすいWhatの重要性を、もう少し具体的に整理していきます。
ここ、経験者でも行き詰まってしまう方、実は多いです。
あなただけのお悩みではないですよ。
整理して、実際の取り組みに、変えていく方法を学ぶ事は可能です。
私のクラス及びレッスンでは、様々な台本やエクササイズを使って、段階的に、また継続的に指導しております。プロでもっと突き抜けたい方も、ご安心ください。
クラスでは、こうした読解のズレを実際の台本で扱っています
ここまで読んで、思い当たることがあった方へ。
どんなふうに演じるかを先に決める癖は、頭でわかっただけでは変わりにくいです。
実際の台本で、どこから外側を作り始めてしまうのか、どこから場面が立ち上がるのかを整理し直す必要があります。
4月24日金曜19:00から22:30は、オンラインでの台本読解クラスです。
まず読み方を整理したい方、自己流で組み立ててきたけれど行き詰まりを感じている方には、ここが入口になります。
そのうえで、4月25日土曜と26日日曜の13:00から17:00は、少人数制のスタジオ実践です。
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読んで終わりではなく、実際の準備や芝居の変化につなげたい方は、こうした場も活用してみてください。
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この記事を書いた講師:プロフィール 鍬田かおる
指導歴20年以上。桐朋学園芸術短期大学演劇科、新国立劇場演劇研修所・オペラ研修所、劇団青年座研究所などで長年指導。
ロンドン大学ゴールドスミス校卒。Royal Central School of Speech and Drama 修士課程ムーヴメント科修了。
イギリスSTAT認定アレクサンダー・テクニーク教師。日本演出者協会会員。
俳優や歌手の技術と身体の理解を統合し、現場で使える“交流のある演技”へ導く専門家。大学や映画スクールの講師を務める傍ら、個人レッスンで一人ひとりの強みを伸ばし、基礎力からアップさせる本格的なプロのトレーニングを中心に活動しています。
小学生から中堅、そして芸能の舞台や映像で活躍する俳優や歌手の方のアクティングコーチであるだけでなく、プロを目指す若手の育成も務める。
IDC認定インティマシー・コーディネータ(ディレクター)として映画や舞台の現場も入ります。
これまで触れてきた演技のなんとかメソッドや、〇〇式に疑問を抱かれた方へ
あなたの違和感は、もしかすると「役」にとってのリアリティーではなかったからかもしれません。
また文化的にも、ヨーロッパで過ごした20代がある私、そしてバイリンガルである私が言うのもなんですが、日本を中心に活躍してらっしゃる方、日本語を母国語として多くの時間を過ごしてる方に向き不向きという傾向はある気がいたします。
また実際、目的の異なるイベントというものもございます。
不可思議な単発ワークショップや特定のメソッドだけの誇大広告に疑問を持たれた方、なんちゃらメソッドばかりのプロモーションに違和感を持たれた方、ご自分のせいだと責めないでくださいね。
私の卒業したようなイギリスの演劇学校では、ほぼすべてのメソッドを1年次に全体的に網羅しておりますし、私の師匠のアメリカの演技スタジオでも、基礎(初歩ではない)の知見は皆共有した上で、それぞれの作品、個別に必要なアプローチを応用させ、指導していく形です。
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演技コーチ/ムーヴメント指導・演出・振付/IDC認定インティマシーディレクター/STAT認定アレクサンダー・テクニーク指導者/スピーチ&プレゼンテーションコーチングActing Coach/Movement Direction/IDC qualified Intimacy Director/STAT certified Alexander Technique teacher, mSTAT, Movement Teaching/Speech and Presentation Coaching



