全体の流れをつかんで、状況を把握して、セリフをいれて、その意味を理解して、感情を込めてしゃべる。
それが「演じること」だと思っていませんか。
もし、セリフを言うことが演じることだと思っているなら、どれだけ練習を重ねても、演技が行き詰まることがあります。
例えば、こんな経験はないでしょうか。
台本を読み込み、役の人物についても調べた。セリフの意味も理解できる。それなのに、実際に演じてみると、なんだか説明的になってしまう。
感情を込めようとするほど、声や間合いが不自然になる。相手役がしゃべっている間は、次のセリフを待っている。沈黙になると、何をしていればいいのか分からなくなる。
喋ってる時は気持ちが出ているのに、セリフが終わって相手のセリフを聞いている、するとなんとなくいろんなことが気になり始めて…
もしくは、相手も自分もしゃべらず、それぞれが何か考えたり、作業をしていると言う訳の人物の身体動作があるだけの時間…
そんな時、「埋まってない気がする」または「埋まってないところがあるよ」と指摘されてしまった。
そんな記憶のある方は、少なくないかもしれません。
けれども、そもそも考えてみてください。
人間は、自分のセリフがあるときだけ生きているわけではありません。
相手の話を聞いている間も、誰かと一緒に黙っている間も、何気ない世間話をしている間も、私たちは生きています。
役の人物だって、同じはずです。
セリフだけでなく、沈黙にもその人物の人生が流れている。
では、台本に書かれていない時間を、俳優はどう生きるのでしょうか。
セリフを言うことだけに集中すると、演技はどこで止まるのか
自分のセリフが来たら、準備してきた言葉をしゃべる。相手のセリフが終わったら、次の言葉をしゃべる。
これでは、会話の順番を守っているだけになってしまうかもしれません。
台本には、セリフだけでなく、人物たちが置かれている状況や、互いの関係、さまざまな出来事が描かれています。
ところが、俳優が自分のセリフをどう言うかばかり考えていると、その場で人物たちの間に何が起きているのかを見落としやすくなります。
例えば、相手が思いがけないことを言ったとしても、すでに決めてきた調子で次のセリフをしゃべってしまう。
その言葉を聞いたことで何かが変わったはずなのに、演技は最初から最後まで同じように進んでいく。
これは、単に「もっと相手を見ましょう」「もっと自然にしゃべりましょう」と言われても、なかなか改善しない問題です。
なぜなら、何のためにその場にいて、なぜ今、その相手にしゃべる必要があるのかというところが、まだ具体的になっていない可能性があるからです。
何気ない世間話にも、人物たちの生活がある
例えば、長年一緒に働いてきた仕事仲間が、休憩中に何気ない会話をしている場面を想像してみてください。
天気の話、昨日の出来事、仕事のちょっとした愚痴。話題だけを取り出せば、特別なことは何も起きていないように思えるかもしれません。
けれども、何気ない世間話に聞こえても、話している本人にとっては、何でもない会話とは限りません。
長い時間をともにしてきた仲間には、二人にしか分からない出来事や、いつもの会話の習慣があるでしょう。
家族なら、毎日の何気ないやり取りが、互いの生活を支えたり、関係を確かめたりする機会になっていることもあります。
職場の同僚であっても、仕事を進めるうえでの信頼関係や、それまで積み重ねてきた経験が会話に影響しているかもしれません。
それを「いつもの挨拶」「コミュニケーションを取る」とだけ考えてしまうと、どうでしょう。
その二人に固有の事情も、その場に一緒にいることの意味も、ずいぶん曖昧になってしまいます。
同じ「おはよう」という言葉でも、毎朝顔を合わせる家族と、何年も会っていなかった相手とでは、まるで違うことが起きているかもしれません。
話題の重要さと、本人にとっての会話の重要さは、必ずしも一致しないのです。
何気ない会話の中にも、人物たちの生活や関係が続いています。
口にしていないことまで、人物の人生は続いている
私たちは、頭に浮かんだことをすべて口にしているわけではありません。
目の前の出来事について話しながら、遠く離れた家族を思い出すこともあります。
相手の話を聞きながら、自分の将来について考えることもあるでしょう。
言いたいことがあっても、あえて別の話をすることもあります。
例えば、相手に聞きたいことがあるのに、なかなか切り出せない。あるいは、話しているうちに、最初は聞くつもりのなかったことが気になってくる。
だからこそ、順番が変わることもありますよね。
その間も、二人の関係や事情は動いています。
ここで注意したいのは、何でも「セリフの裏にある感情」として考えればよいわけではないことです。
人間には、一人ひとりの過去があり、日々の暮らしがあり、これからの予定や心配事があります。
その人物が個人的な事情を持った一人の人間として、今、目の前の相手と関わっていることは、演技を考えるうえで大切ではないでしょうか。
台本に書かれたセリフだけを追いかけていると、その人物が生きている世界の一部しか見えていないかもしれません。
自分のセリフを待っていませんか
相手役が話している間、聞いているつもりでも、頭の中では次のセリフを準備していることはありませんか。
日常生活なら、相手の言葉を聞いている間にも、さまざまなことが起きています。
予想していなかったことを聞いて驚いたり、思っていたことと違うと気づいたり、相手への見方が変わったりします。
話を聞くうちに、今まで言うつもりのなかったことを言いたくなる場合もあるでしょう。
それなのに、演技では、相手が何をしゃべっても、最初に決めた自分のセリフの言い方が変わらない。
こうなると、相手役は自分の次のセリフを引き出してくれる合図のような存在になってしまいます。
相手の言葉を聞いているつもりでも、あらかじめ決めた演技に戻ってしまう。そんな「頭では分かっているのに、実際の芝居が変わらない」という問題については、関連記事「役の目的・目標を考えても芝居が動かない理由」でも取り上げています。
沈黙を、表情や感情で埋めようとしていませんか
台本に「間」とか「しばしの沈黙」のように書かれていたら、どうしますか。
悲しそうな顔をする。考え込んだ表情をする。視線を落とす。何か言いたそうにする。
もちろん、結果としてそのような表情や動きが生まれることはあるでしょう。
でも、黙っている間にも、人間は考え、感じ、判断し、選択しています。
何かを言おうとしてやめたり、相手の様子を見て判断を変えたり、突然、決心したりすることもあるでしょう。
一方で、親しい相手と何もしゃべらずに過ごす時間が、ごく自然で心地よい場合もあります。
沈黙は、何もしない時間ではありません。
そこにも、その人物が生きている時間が流れています。
沈黙の長さや、どんな表情をするかを先に決める前に、何がその時間を生んでいるのか。
そこには、まだ考えられることがたくさんあると思います。
セリフを大切にしたいなら、セリフの出所を考える
セリフの意味を理解することは、もちろん必要です。
作品の構造、人物同士の関係、その場で起きている出来事を読み取ることも重要です。
ただし、言葉の意味を説明できることと、その人物としてその言葉をしゃべる必要があることは、同じではありません。
例えば「これは相手を心配しているセリフです」と説明できる部分だったとします。
では、その人物は、なぜ今、その相手に、その言葉を言うのでしょう。
「心配している」という説明ができたからといって、役の人物としてその場で何かをしているとは限りません。
国語的な言い換えや、あらすじの説明を重ねても、その人物にとっての個人的な意味が深まるとは限らないのです。
セリフは、台本に書いてあるから言うのではない。その瞬間、その相手に、その言葉が必要になる。
そう考えると、セリフが始まる前の時間も、相手が話している時間も、沈黙も、無関係ではなくなります。
言葉がどこから生まれてくるのか。
その出所を考えることは、セリフを役の人物自身の言葉としてしゃべるための、大切な課題だと思います。
演技が変わるとき、思考・感情・声・身体にも何が起きるのか
セリフがうまく言えないとき、声の強弱やテンポ、間合いを工夫してみることや、感情が足りないと思えば、もっと気持ちを込めようとするかもしれません。
ところが、そうやって頑張るほど、声を押し出してしまったり、身体が固くなったり、不自然な演技になってしまうこともあります。
私が20年以上の演技指導で大切にしているのは、役の人物として具体的に考え、目の前の相手との関係や、その場で起きていることに関わっていくことです。
個人的な事情が具体的になり、相手から受け取るものや意味づけが変わると、感じ方や呼吸、声、発音、身体の反応にも変化が生まれることがあります。
感情を先につくってからセリフに乗せようとしなくても、人物として考え、判断し、相手と関わる中で、思いがけない表現が生まれる可能性があります。
もっとも、台本を読んで理解したことが、すぐに実際の演技で使えるとは限りません。
よくあるのが、一人で考えている間は納得していても、相手役と向き合ってみると、思い通りにできないことがあります。
その違いを実際に確かめ、次の仕事でも活かせるようにすることも、レベルアップしていきたい俳優や歌手の方、そして声優の方でもの重要な部分です。
あなたの演技は、セリフがない時間にも続いていますか
今、取り組んでいる台本を思い浮かべてみてください。
セリフの意味は理解している。人物の背景も調べた。どんな感情でしゃべるかも考えている。
では、相手がしゃべっている間、その人物にはどんな時間が流れているでしょう。
何気ない世間話風に見える場面で、その二人はどんな生活や関係があるのでしょう。
言葉にしなかったことや、沈黙している時間は、どのようにその人物の人生と関わっているでしょうか。
そして、なぜ、その瞬間、その相手に、その言葉をしゃべる必要があるのでしょう。
セリフを上手に言おうとすることばかりに集中していたなら、一度、その手前に目を向けてみてください。
その人物として生きている時間が具体的になれば、いつもと同じように見えていたセリフにも、これまで気づかなかった可能性が見えてくるかもしれません。
台本読解を、実際の演技で使える力にしていきたい方へ
「台本を読み込んでいるのに、演じると説明的になってしまう」
「相手のセリフを聞いている間、次の言葉を待ってしまう」
「感情を込めようとすると、声や身体が不自然になる」
「読解したことを、実際に演じるときに使えるようになりたい」
こうした課題をお持ちの方には、オンラインでの台本読解と、少人数制のスタジオ実践を組み合わせたトレーニングをご案内しています。
オンラインでは、作品の構造や人物固有の事情を読み取り、実際に演じるための準備を深めていきます。
スタジオ実践では、読解したことを声と身体を使って試し、どこで行き詰まり、何が変わるのかを確かめていきます。
講師から答えを教わって終わるのではなく、俳優自身が次の作品でも考え、判断し、試せるようになることを目指します。
2026年11月20日(金)・22日(日)の演技クラス
11月20日(金)19:00〜22:30
オンライン|演じるための台本読解
参加費:10,000円
お申込締切:11月20日(金)正午
11月20日(金)・22日(日)
オンライン+少人数スタジオ実践
11月22日(日)13:00〜17:30|スタジオ
2日間参加費:27,000円
お申込締切:11月19日(木)23:59
オンライン部分のみの参加も可能です。スタジオ実践への参加には、11月20日のオンライン台本読解の受講が必要です。録画視聴・後日配信・見学には対応しておりません。
今回のクラスでは、長いセリフやモノローグを自分ごとでしゃべるための読解と実践にも取り組みます。セリフの事前暗記は必要ありません。
参加条件やお申し込み方法については募集ページをご確認ください。お申し込み前にキャンセルポリシーもご確認ください。
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あわせて読みたい|演じるための台本読解
台本を読むことと、読んだことを実際の演技で使うことの違いについて、こちらの記事でも扱っています。
この記事を書いた講師
鍬田かおる
演技コーチ/アレクサンダー・テクニーク教師
ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ及び、ロイヤル・セントラル・スクール・オブ・スピーチ&ドラマ修士課程卒業。
20年以上にわたり、俳優、声優、歌手、ダンサーなどに向けて、台本読解、役作り、身体と声、相手とのやり取りを中心とした演技指導を行っています。
映画スクール、芸能事務所、演劇教育機関などでの指導経験を持ち、舞台・映像・オーディションなど、それぞれの現場に必要な準備と実践を扱っています。
俳優自身が考え、試し、判断し、次の仕事でも使える技術を育てることを大切にしています。
また、インティマシー・コーディネーター(映像)/インティマシー・ディレクター(舞台)としても活動しています。
これまでの指導経験や経歴、演技指導で大切にしている考え方については、鍬田かおるの詳しいプロフィールをご覧ください。
日々の演技指導や身体と声、台本読解についての発信は、Instagram(演技コーチ 鍬田かおる)でもご紹介しています。
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演技コーチ/ムーヴメント指導・演出・振付/IDC認定インティマシーディレクター/STAT認定アレクサンダー・テクニーク指導者/スピーチ&プレゼンテーションコーチングActing Coach/Movement Direction/IDC qualified Intimacy Director/STAT certified Alexander Technique teacher, mSTAT, Movement Teaching/Speech and Presentation Coaching


