「今度の役、ちょっと難しいかもしれない」
「演出家から言われたことが、どうしてもうまくできない」
「オーディションが決まったので、一度見てほしい」
「撮影まで時間がない」
そんな時に、演技レッスンや個人レッスンを使うことがあります。
私は、それ自体はとても合理的な使い方だと思っています。
具体的な役があり、期限があり、今の自分だけでは整理しきれない。そういう時には、その作品、その役、その時の状況に合わせて専門家と取り組む意味があります。
ただ、長く俳優を指導していると、少し気になる循環があります。
仕事が決まる。役や台本が難しくて困る。
レッスンに来る。その場では改善する。本番が終わるとトレーニングも止まる。
そして次の仕事が来た時、また似たところで詰まる。
もしこれを何度か繰り返しているなら、「今回の役が難しい」ことだけが問題ではないのかもしれません。
困った時だけ演技レッスンに行くと、なぜ同じ課題を繰り返すのか
現場前の個人レッスンは、いわば「救急外来」のように機能することがあります。
来週撮影なら、来週までに必要なことを扱う。
本番が迫っていれば、今の役と台本を優先する。オーディションなら、その限られた条件の中でできる準備をします。
その時には、それが必要です。
問題になるのは、困った時に個人レッスンへ行くことではありません。
困った時にしかトレーニングしないことです。
毎回「今回を何とかする」ことに時間を使い、本番が終わったところで学習まで止まると、その時に見つかった課題が次の仕事へ持ち越されやすくなります。
「その場でできた」と「次の作品でも一人でできる」は違う
学ぶ時には、ここを分けて考える必要があります。
「一度習った」「その場でできた」
「一人で再現できる」「応用できる」
「別の作品でも使える」「必要な時に自然に使える」
これは、全部同じではありません。
レッスンの中で説明を聞いて、「なるほど」と思う。フィードバックを受けながら実際にやってみると変わる。
そこまではできても、数週間後に別の台本を一人で渡された時、同じように考え、判断し、選べるとは限りません。
私自身、複数の舞台や映像の俳優や歌手の方から、またもっと活躍したい方々から
「先生の説明を聞いた時はすごくわかったつもりだった」
「一緒にやった時は、あんなにできたのに」とうったえられます(笑)
相手が変わる。ジャンルが変わる。
いろんな事情で準備時間が短くなる。演出家や監督から違う要求が来る。
条件が変わった途端に使えなくなるなら、まだ「知っている」から「自分で使える」へ移る途中なんです。
以前クラスやレッスンを受けたことがある方も、一度考えてみてください。
その後、別の台本でも自力で使えたでしょうか。
時間が限られていても、進められましたか。
相手や条件が変わった時にも、自分で判断し直せたでしょうか。
「前に習ったことがある」と、「今の自分が使える」は別です。
チャンスが来てから、技術不足の請求書が届く
この差がはっきり出やすいのが、久しぶりに難しい役、大きな役、負荷の高い仕事が来た時です。
役が大きくなれば、扱う情報量も増えます。
準備量も責任も増える。共演者との関係も複雑になり、作品全体を通して人物を保ちながら、長い時間の中で一貫性と変化の両方が必要になります。
その時になって初めて、
人物をどう深めればいいのか。
長いシーンをどう扱えばいいのか。
演技に説得力を持たせるには何が必要なのか…
そうした基礎部分まで一気に立て直すことになる人がいます。
言ってみれば、
「チャンスが来てから、技術不足の請求書が届く」
ような状態。
しかも、この請求書はだいたい一番忙しい時に届きます。
せっかくのチャンスに、本来なら「この人物をどこまで豊かにできるか」に使える時間を、「そもそも、どう準備しようか」というところへ戻ってしまう。
これは、とてももったいない。
普段から違う台本、違う条件で考えたり試したりしていれば、大きな仕事が来た時のスタート地点を変えられます。
今までできていたことを確認して進むのではなく、
【その役だからこそ必要なこ】とへ、もっと時間も労力を使えるようになります。だから、自分の感性も磨かれますし、ご本人が楽しめる余裕が生まれるので、表情がキラキラしてくる方も多いです。
今週、台本を読む力を見直したい方へ
2026年9月20日(日)18:30〜22:00、オンラインで「演じるための台本読解」を行います。
仕事が来てから台本の読み方を思い出すのではなく、新しい台本を渡された時に、自分で読み、考え、演技の準備を始められる材料を増やしていくクラスです。
以前参加したことがある方も、「前に分かったこと」が、別の題材や条件でも自力で使えるようになっているかを確かめる機会になります。
ちゃんとやっているつもりだけれど、なぜか結果につながらない、と感じている方はこちらの記事もあわせてどうぞ。
実力は、昔の最高到達点ではなく、今すぐ出せるものです
長く活動している方には、もう一つ注意したいことがあります。
「昔できた」とか「前は分かっていた」
という記憶です。
しかも、褒められたもの、収入に直結していたもの、気持ちよかった部分ってなかなか手放せないんです。
その上、年齢を重ねたから、自動的に演技が下手になるという話ではありません。
新しい台本を短時間でチャレンジして、深めるる機会が少ない。
しばらく大きな役を担っていない。
周囲が何でもオーケーしてくれる。
これまでと異なる要求をされる機会が減った。
自分では気づきにくい癖を、外から指摘されることもない。
そういう期間が重なると、本人の中には「できた」という感覚が残っていても、現在の処理速度、判断の精度、柔軟性、再現性まで同じとは限りません。
実力は、昔の最高到達点ではなく、今すぐ出せるものです。
だからこそ、仕事がない時にもトレーニングする意味があります。
仕事が立て込んでいない時期のトレーニングが、次の仕事
仕事が決まっていない時には、締切がありません。
監督や演出家から急に変更を求められることも、本番まであと何日と追われることもない。そのぶん、今すぐ困っている感覚は薄くなります。
けれど、そういう時だからこそできることがあります。
自分の現在地を確認する。
以前指摘されたことを、別の条件でも使えるか試す。
まだ慣れていないものに取り組む。
できることを増やす、と同時に苦手を減らす。
判断材料や選択肢を増やす。
仕事が決まってから初めて準備を始めるのではなく、次の仕事で使えるものを、その前から育てておく。
役の目的や目標を考えているつもりでも、セリフや「どう演じるか」から逆算してしまうと、別の台本になった途端にまた迷うことがあります。
こちらの記事でも、その違いを扱っています。
シーンの目的はどこから考える?|セリフや「どう演じるか」から逆算すると迷う理由
継続して演技を学ぶと、急なオーディションや台本変更にも慌てにくくなる
継続してトレーニングする大きな利点は、単に「上手くなる」ことだけではありません。
急にオーディションが入る。直前にシーンが差し替わる。
予定より遅く台本が届いた!撮影までの時間が思ったより短い…
そういう時にも、落ち着いて、この作品に対してどこから取り組むと自分にプラスになるか、どの切り口から使っていくと、求められている以上の結果が出せるか…見えて来るようになるんです。
自分の現在地や伸びしろが分かっていれば、限られた準備時間の中でも取り組みやすくなります。
「この役、間に合うだろうか」「まずセリフを早く入れないと。」
「何かよくわからないけど、とりあえずやらなきゃ」
というようなプレッシャーだけに追われるのではなく、
「今回は、この人物のどこから深めよう」
「この条件なら、自分のどの力を使えるだろう」
と、その役そのものに時間を使いやすくなります。
継続的に見てもらうことで、演技の準備がスムーズになる理由
継続には、もう一つ利点があります。
これまでの成長の経過や、得意なこと、苦手なこと、以前よりできるようになったこと、詰まりやすいところが、指導する側にもある程度共有されています。
毎回一から自分の状態を説明し直す必要が少なくなるため、コミュニケーションもスムーズになります。
今はもう少し深める時なのか。別の視点を入れる時なのか。
一度整理した方がいいのか、迷いの原因が他にないかどうか…
その日、その月の出来だけを見るのではなく、これまでの変化を踏まえて考えられるので、必要なタイミングで必要なアドバイスへ入りやすくなります。
場合によっては、その人の状態や課題に合わせて、必要なエクササイズや取り組み方そのものを考えることもあります。
これも、時間に追われて「今回だけを何とかする」時とは違う、継続的に取り組む大きな利点です。
継続は「同じことをもう一度聞く」ためではありません
以前参加したクラスで、
「そこができていなかったのか」
「今まで考えていなかった」「次から気をつけよう」
と思ったことがある方もいるでしょう。
大事なのは、その後です。
これ、楽器の演奏やスポーツ、語学でも同じなので、すぐわかる方も多いと思いますが、反復しないと定着しないんです。
私自身、楽器やダンスなども長年やってきましたが、様々な先生に複数回、10年間注意されても、自分自身がやっていることを変えない限り、なかなか他人に見えるような変化は起きないのです。
継続は、以前聞いた説明をもう一度聞くためだけのものではありません。
題材や条件、切り口が変わるからこそ、「知っている」から「使える」へ進んでいるかを確認できます。
「できていないことが分かった」で終わるのか。
その次に、自力で使えるところまで育てるのか。
ここには、大きな違いがあります。
クラスと個人レッスンは、必要に応じて併用できます
年間を通じて、リハーサルや撮影など現場と重なっていない時期に、オンラインやスタジオでのクラスに参加している俳優・歌手の方も多くいらっしゃいます。
私のクラスでは、毎回同じ題材、同じ内容を繰り返しません。
テーマや切り口、題材、条件を変えながら、別の作品でも使えるものを増やし、俳優や歌手の方とそれを目指す方々の力を底上げしていきます。
一方、現場が続いている方は、撮影日が動いたり、リハーサルが追加されたり、急なオーディションや台本の差し替えが入ったりして、クラスの日程だけでは対応しにくいことがありますから、個人レッスンの併用が効果的・効率的だとおっしゃる方も多いです。
たとえば、地方で撮影や公演が続いている間には、オンラインで台本を読み込み、役やシーンの準備を進める。
東京に戻って時間が取れる時には、必要に応じてスタジオで身体や声、実際の演技を扱う。
現場と重なっていない時期にはクラスで使えるものを増やし、具体的な役や期限が出てきたら、その仕事に合わせて個人レッスンも利用する。
どちらか一方を選ぶ必要はありません。
その時の仕事やスケジュールに合わせながら、学びを途切れさせずにつなげていくことができます。
すでに具体的な役、舞台、撮影、オーディションなどがあり、今の課題を個別に扱いたい方はこちらをご覧ください。
9月20日オンライン「演じるための台本読解」
2026年9月20日(日)18:30〜22:00、オンラインで「演じるための台本読解」を行います。
新しい台本を渡された時に、どこを見るのか、何を考えるのか、何を判断するのか。
【自分ごと】で想像して、感じて動いてしゃべるためのクラスです。
次の台本でも、自分で考え、判断し、準備を始められる範囲を増やしていきます。
翌日9月21日(月・祝)13:00〜15:45には、9月20日の参加者を対象に少人数制の演技実践で感覚的にも理解し、体験を増やしていく仕組みです。
組み合わせで相乗効果があるように作っていますので、実際に相手や条件がある中で試したい方は、あわせてご参加ください。
10月にも、別の切り口・題材でクラスを予定しています。
9月と同じ内容をそのまま繰り返すものではありません。複数の題材や条件を経験しながら、年間を通じて使える力を少しずつ底上げしていくためのクラスです。内容・日程は決まり次第ご案内します。
よくあるご質問
Q.以前、台本読解のクラスに参加しました。また参加する意味はありますか?
あります。前回の内容を覚えているかどうかだけではなく、それを別の台本や条件でも、自分で考え、判断し、使えるようになっているかが大切です。
同じ題材や切り口を繰り返すクラス事はありませんので、ご安心ください。年に数回参加するうちに、スピードが上がってきた、先生の言っていたことの効果がわかってきたと喜ぶ方も多いです。
Q.仕事やオーディションが決まってから個人レッスンを受けるのでは遅いですか?
遅いとは限りませんが、もったいない時間の使い方である可能性は残念ながらあります。なぜなら、普段からトレーニングしていると、基礎から全部整え直す時間を減らし、その役ならではの準備により多くの時間を使いやすくなります。
現場が続く方は、クラスと個人レッスンを併用することもできます。
スケジュールが難しい方は、個人レッスンのみの方も現実にいらっしゃいます。
Q.9月20日に参加できません。10月にも同じクラスがありますか?
10月にもクラスを予定していますが、9月と同じ内容・同じ題材をそのまま繰り返すわけではありません。
テーマや切り口、題材、条件を変えながら、別の角度から使える力を増やしていきます。
「今回は参加できないから、次に同じものを受ければいい」という関係ではありません。
私自身、参加者の方の課題やご経験、またブラッシュアップを重ねているため、同じ内容を繰り返す事はありません。
何より、複数回参加することで、別の作品や映像でも、また舞台でもでも使えるかを確かめたり、新しい視点を増やしたりしながら、スキルアップ、底力をつけていくことができます。
仕事が来てから間に合わせる人から、仕事が来る前に育てている人へ
誰しも、すべてのことを毎週詰め込むことはできないので、ときには、困ってから専門家を使う必要がある時もあります。
ただ、それだけを繰り返していると、次の仕事でもまた、似たところから準備を始める感じがしたころはありませんか。
できることを増やしておく。
知っていることを、必要な時に使えるところまで育てておく。
次のチャンスが来た時、その役をどこまで豊かにできるかに時間を使えるように。
これまで20年以上、映像や舞台で活躍する俳優や歌手の方々を指導してきましたが、なによりご自身がプレッシャーや不安から解放され、より内容に集中できた、現場で楽しむ余裕が生まれたとおっしゃる方も多いです。
2026年9月20日(日)18:30〜22:00のオンライン「演じるための台本読解」では、そのための台本の読み方を、実際の題材を使いながら扱います。
すでに具体的な作品、役、オーディション、撮影、公演などの課題がある方は、個人レッスンもご利用いただけます。
最新のクラス情報・募集のお知らせ
今後のクラス日程や募集開始のお知らせ、演技・台本読解・身体と声に関する更新情報は、公式LINEでもご案内しています。
9月は日程が合わない方、10月以降のクラスを確認したい方も、こちらからご登録いただけます。

鍬田かおる|演技コーチ
俳優・歌手を中心に、台本読解、身体、声、相手とのやり取り、現場前の準備まで、20年以上にわたり指導しています。
映像・舞台の現場、芸能事務所、養成所、大学、個人レッスン、少人数制クラスなどで、プロフェッショナルとして長く活動していくための基礎と応用を扱っています。
また、映像ではインティマシー・コーディネーター、舞台ではインティマシー・ディレクターとして、俳優と制作側の双方が安全かつ具体的に仕事を進められるための振付や演出サポートも行っています。

演技コーチ/ムーヴメント指導・演出・振付/IDC認定インティマシーディレクター/STAT認定アレクサンダー・テクニーク指導者/スピーチ&プレゼンテーションコーチングActing Coach/Movement Direction/IDC qualified Intimacy Director/STAT certified Alexander Technique teacher, mSTAT, Movement Teaching/Speech and Presentation Coaching


