今回のテーマは、一生懸命だからこそ生まれる盲点かもしれません。
もちろんセリフは覚えている。
それなりに、気持ちも動いている。
今まで学んだことや、現場のアドバイスをもとに、自分では真剣に準備している。
それでも、外から見ると、相手とのやり取りが薄く見えたり、説明っぽく聞こえたり、本人の中だけで完結しているように見えてしまうことがあります。
「頑張っているのに、なぜ手ごたえが変わらないのか」
「練習しているのに、なぜ評価や結果につながりにくいのか」
「もっと深めたいのに、なぜ演技が飛躍しないのか」
私自身、オーディションに落ちるたび、小学生の頃から、疑問に感じていました。
でも、目の前のことを一生懸命にやるしかないと思い込んでしまう。
一つ一つ積み重ねていけば(積み重ねは重要だが)、何とかなるのではないかというような、今で思えば「楽観的すぎる」ビジョン。
さて、冒頭のような違和感があるとき、見るべきなのは努力の量だけではありません。
努力の向き、準備の順番、台本から行動へ変換する手順が、少しずれている可能性があります。
私がそれを最初に痛感したのは、イギリスの大学の演劇科で、俳優の育成システムについて調べ始めた時。
そして、2回目に頭を殴られたように、ショックだったけれど、辻褄があったのが、イギリスの演劇学校で、世界トップの映像や舞台で活躍する俳優の養成のカリキュラムを、研究した時です。
さて、
今回の3つの記事では、俳優や歌手が陥りやすい演技のパターンを、別々の角度から整理しました。
①セリフを「上手に」言おうとする。
②「自然に」やろうとする。
③ 感情を「出そう」とする。
どれも一見、良いことのように見えます。
けれど、それが目的化すると、役の人物として相手に向かう行動から離れてしまうことがあります。
心当たりは、ありませんか?
①セリフを「上手に言おう」として、説明っぽくなる
セリフをきれいに言うこと、上手に聞こえることを目指しすぎると、言葉が相手に向かう行動ではなく、俳優本人の説明になってしまうことがあります。
声は出ている。
言葉も聞こえる。
でも、そのセリフで相手に何をしているのかが見えにくい。
そうなると、観客には「うまく言っている俳優」は見えても、役の人物が今その場で何かを変えようとしているようには見えにくくなります。
特に、真面目に練習してきた俳優ほど、セリフを間違えないこと、言葉をきれいに届けること、感情を乗せることに意識が向きすぎる場合があります。
もちろん、聞こえることは大切です。
けれど、セリフはただ音として出すものではありません。
その言葉で、相手を止めるのか。
引き寄せるのか。それはなぜなのか。
責めるのか。かわすのか。
誘うのか。それはいつまでに、なのか?
隠すのか。それは何からなのか?
試すのか。なぜ、ここで、なのか?
セリフは、役の人物が相手に働きかけるための方法です。
「セリフを上手に言う俳優の顔」になっていないか。
まず見直したいのは、言葉をどう聞かせるかではなく、その言葉で相手に何をしているのかです。
関連記事:
セリフが説明っぽくなる理由|俳優が見直したい言葉と行動の関係
https://kaorukuwata.com/acting-lines-sound-explanatory/
詳しくはこの記事をご覧ください。
当てはまっているかもしれないなと感じた方、1人でグルグル悩まずに、その違和感を伸びしろに変えていきませんか?
② 「自然にやろう」として、ホームビデオになる
「自然にやろう」とすること自体は悪いことではありません。
けれど、物語として再構成されていない時間や空間は、初めて見る他人には伝わりにくいことがあります。
仲間内では分かる。けれど、それだけでは作品としての手ごたえにつながりにくいことがあります。
知っている人には伝わる。そこから仕事につながっていくのか。
その場にいた人には面白い….でも、不特定多数の観客に初めて見せる表現としては、時間が凝縮されていなかったり、空間が選び取られていなかったりすることがあります。
それは、いわば「ホームビデオ」のような状態です。
その場にいた家族や友人には大切な記録でも、初めて見る他人にとっては、何を見ればいいのか、何が変化しているのか、どこに意味があるのかが見えにくい。
これは、単純に、共感ができないというだけでなく、視点が定まっていなかったり、特に意見がなかったり、それこそ、身内の記録以上に、何があるのかわからない点が難しいのです。
映像でも舞台でも、表現はただの記録ではありません。
身体、呼吸、発声、想像、反応、行動、コミュニケーションは、確かに自然の仕組みに支えられています。
ただし、舞台や映像で観客に伝わる表現は、現実をただ写し取ったものではなく、選び取られ、編集され、凝縮された行動です。
自然に基づいていることと、ただ「現実っぽく」しておけばよいことは違います。
演技は、現実のコピーではありません。
物語の中で、誰が、誰に、何をし、何が変わるのか。
そこが見えるように、時間も空間も行動も選ばれていく必要があります。
関連記事:
自然にやっているつもりなのに、なぜホームビデオに見えるのか
https://kaorukuwata.com/acting-natural-home-video/
こちらを読んで、ただリラックスする、なんとなく、ボソボソつぶやく演技に疑問を感じられた方、あなたの違和感は正しいです。
私がイギリスやアメリカで学んできた師匠たちも、映像でも舞台でも、そのような演技には20年以上前から違和感を示していました。
「大丈夫です、あなたは1人ではありません。」は少しクサく見えます。かおるさんの文章としては、こちらの方が品があります。
その違和感は、見直す価値のある感覚だと思います。
感情を「出そう」として、役の行動から離れてしまう
「こんなに感じているのに、なぜ伝わらないのか」
そう感じる俳優や歌手もいるかもしれません。
実際、10代、20代の頃の私も、演出家の先生方からダメ出しされるたびに、密かに「なんでだろう…おかしいなぁ…」のように感じていた記憶があります。(今思うと、本当に申し訳ないです。)
けれど、論理的に考えれば、実際の人間は、特殊な事情や演出がない限り、感情を出そうと頑張って生きているわけではありません。
むしろ、隠す。社会的にオーケーな言葉に置き換えている。
折り合いをつける。我慢する。
気づかないまま、突き動かされる。後になって気づくこともたまに…。
思考を使って、どうにか保とうとする。
それでもまだわからなかったことがたくさんある…
そんな事は、実際にありませんか?
感情は、いまだ!と出そうとして押し出すものというより、状況や相手との関係、目的や必要性の中で、結果として現れるものです。
理由や動機、因果関係、背景が十分に整理されていないまま、想像上の感情を押し出そうとすると、役の人物ではなく、俳優本人の高揚感や興奮が前に出てしまうことがあります。
本人にとっては強く感じている。
けれど、相手役とのやり取りとしては変化していない。
観客から見ると、何に向かっているのかが分かりにくい。
そういうことが起きます。
感情が大きいことと、演技が深いことは同じではありません。
感情を出そうとする前に、その人物が今、何を隠しているのか。
何と折り合いをつけているのか。
何に気づかないまま突き動かされているのか。
何を守り、何を変えようとしているのか。
そこを見直すことで、感情は押し出すものではなく、行動の中から立ち上がるものになっていきます。
この手ごたえが体験できて、積み重なっていくと、演技の質が変わっていきます。
いわば、「1人よがり」ではなくなっていくのです。
関連記事:
こんなに感じているのに、なぜ演技では伝わらないのか
https://kaorukuwata.com/acting-emotion-is-not-acting/
こちらの記事を読んで少し引っかかった方は、その反応そのものが、次に見直す入口になるかもしれません。
上の3つに共通しているのは、相手との行動が抜けること
この3つは、別々の問題に見えます。
①セリフを「上手に言おう」とする。
②自然に「やろう」とする。
③感情を「出そう」とする。
けれど、共通しているのは、変化ではないこと。力技に近いこと、そして、演技が「相手(や対象)に向かう行動」から離れてしまうことです。
セリフは、方法の一つです。
感情も、結果の一部として現れるものです。
自然さも、結果的に、現れるものであって、目的ではありません。
大切なのは、役の人物として、今その場で何を見て、何を受け取り、相手に何をしようとしているのか。
そこが具体的になると、セリフ、身体、声、表情、間、反応が、別々のものではなくなっていきます。
実際のクラスでも、「自分では感じているつもりだったことが、相手との行動としてはまだ曖昧だった」と気づかれる方がいます。
ただ、そのためには、想像力を鍛えたり、その想像を「見えるように」していく身体の感覚のトレーニングや、動きに敏感になっていく必要があります。
年間を通じて、私のクラスでは、そのような内容を設定している時もあるので、よろしければご覧ください。
さて、
手ごたえが変わらないときほど、準備の順番を見直す
演技の行き詰まりは、必ずしも、いわゆる才能不足とは限りません。
例えば、セリフの扱い方。そもそもの読解。
ちょっとした、自然さへの思い込み。
つい、自分のパターンになりがちな、感情の出し方。
誰しも癖はあります。
何が悪いと言うのではなく身体と声の使い方が、限られた時間内に、他人を演じることのために、使ういわば「回路」がスムーズになっていないのかもしれません。
それこそ、多くの方が大事にしたいとおっしゃる相手とのやり取り。
台本から行動へ変換する手順。
それらが少しずつずれているだけで、本人の中では真剣に動いているのに、外から見ると手ごたえや結果につながりにくくなることがあります。
これは非常にもったいないです。
一度の気づきで全部が変わるわけではありません。
けれど、自分の癖や準備の順番を見直し続けることで、稽古場や現場で試せることは確実に増えていきます。
クラスや個人レッスンでは、そうしたズレをただ責めるのではなく、次に試せる形へ整理していきます。
継続して見直す俳優ほど、自分の演技を偶然任せにしなくなります。
調子が良い時だけできるのではなく、台本、相手、身体、声、状況を使って、現場前に準備できることが増えていきます。
そのかわり、持続した、また意識的な練習というものが重要になってきます。
6月のクラスでは、台本読解・実践・身体と声から扱います
6月後半は、この3つの問題をそれぞれ別の角度から扱えるクラスを開催します。
6月27日のオンラインクラスでは、役を自分ごとで準備するための読解と想像を扱います。
ここで今までのモヤモヤが、スッキリされる方も、いらっしゃいます。
セリフを入れる前に、台本から何を読み取り、役の人物として何を見て、何に向かうのかを整理します。
そして、
翌日6月28日のスタジオクラスでは、台本から読み取ったことを、実際に相手に向かう行動として試していきます。
頭で分かったことを、声、身体、間、想像の扱いへつなげていきます。
また6月29日の身体と声のセミプライベートでは、演技や歌に必要な身体と声の使い方を、少人数で丁寧に見直します。
力でただ押すのではなく、身体と声が相手に向かいやすくなる土台を扱います。
参加された方からも、台本の読み方や相手から受け取る感覚が変わり、声に出した時の迷いが減ったという声をいただいています。
クラス詳細:
6月27日・28日のクラスでは、台本読解とスタジオ実践をつなげて扱います。詳細はこちらをご確認ください。
https://kaorukuwata.com/acting-class-own-words-script-20260627-28/
6月29日の身体と声のセミプライベートでは、演技や歌に必要な身体と声の土台を少人数で見直します。詳細はこちらです。
https://kaorukuwata.com/body-voice-semiprivate-lesson-20260629/
読んで終わらせず、次の準備へつなげるために
この3つの記事は、俳優や歌手を否定するためのものではありません。
真剣に取り組んできたからこそ、どこで力の向きがずれているのかを見直すための記事です。
セリフを上手に言うこと。
自然に見えること。
感情を出すこと。
どれも、演技の目的そのものではありません。
役の人物として、今その場で何を受け取り、何を変えようとしているのか。
そのために、言葉、身体、声、感情、想像をどう使うのか。
ここを継続して見直していきたい俳優や歌手は、ぜひ6月のクラスや個人レッスンをご活用ください。
一度の受講で終わらせるのではなく、台本読解、身体、声、相手とのやり取りを、年間を通じて少しずつ整えていくことで、現場前の準備やオーディション前の取り組み方も変わっていきます。
自分の演技をもう一段深めたい方は、まずはこの3つの記事から、ご自身の現在地を見直してみてください。
この記事を書いた講師
鍬田かおる
演技コーチ、アレクサンダー・テクニーク教師。
俳優、歌手、ミュージカル俳優、声優、映像や舞台で活動する方に向けて、台本読解、演技実践、身体と声、相手とのやり取りを扱うレッスンを行っています。
また、インティマシー・コーディネーター(ディレクター)として、映像や舞台における親密な場面、身体的な距離、同意、境界線を含む演出の相談にも対応しています。
演技を、気持ちだけでどうにかするのではなく、台本、身体、声、相手、状況を具体的に扱えるものとして整理することを大切にしています。
クラス案内・個人レッスン・講師依頼について
演技クラス、個人レッスン、教育機関・芸能事務所・映画スクール等での講師依頼については、下のお問い合わせフォームよりご連絡ください。
現場の準備、台本読解、演技実践、身体と声、歌手やダンサーの方のためのアレクサンダー・テクニーク、インティマシー・コーディネーター(ディレクター)としての映像や舞台の現場相談など、目的に応じてご相談いただけます。
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演技コーチ/ムーヴメント指導・演出・振付/IDC認定インティマシーディレクター/STAT認定アレクサンダー・テクニーク指導者/スピーチ&プレゼンテーションコーチングActing Coach/Movement Direction/IDC qualified Intimacy Director/STAT certified Alexander Technique teacher, mSTAT, Movement Teaching/Speech and Presentation Coaching



