役作りは、まだ知らない人物に出会う時間でもあります。
これまでたくさんの役を演じてきたとしても、次に出会う人物は、まだ知らない誰かです。
似たような境遇の人物を演じた経験があっても、同じ作品、同じ相手、同じ状況というわけではありません。
新しい役との出会いには、これまでの自分が持っていなかった視点や、まだ試していない表現を発見する楽しみがあります。
ところが、役作りを進めるうちに、「この解釈で大丈夫だろうか」「演出家の求める演技ができているだろうか」「もっと面白く演じるにはどうしたらいいだろう」と、自分の出来栄えに関心が向きすぎてしまうことがありませんか?
技術を磨き、作品の要求に応えることは俳優の大切な仕事です。しかし、私は役作りには、もう一つ大きな楽しみがあると思っています。
まだ知らない人物に出会い、その人物として生きる可能性を発見していくこと。
人物が見えてくると、やってみたいことが増えていく。
私は、この瞬間がとても好きです。
以前のクラスに参加された方からも、こんなご感想をいただきました。
「これまで自分の演技が浅く感じていたのですが、なぜかわからないままでした。クラスで先生に提案されて、自分の思い込みや選び方のクセが見えてきて、もったいないことをしていたんだと気がつきました。」
●過去のクラス参加者のお声
役作りで人物への理解が深まると、演技の選択肢が増えていく
先日、個人レッスンで、ある役の人物と、その人物を取り巻く人間関係について掘り下げていたときのことです。
具体的な状況や、そこから考えられるさまざまな可能性について話していくうちに、受講されていた俳優の表情が明るくなり、楽しそうになっていく様子が印象に残りました。
それまで考えていた人物に、新しい可能性が加わる。相手との関係について、今までとは違う捉え方が見えてくる。
すると、俳優の関心も、自分がうまく演じられるかどうかということから、目の前に現れてきた人物そのものへ向かっていくように見えたのです。
「この人物だったら、何をするだろう?」
こうした好奇心が動き始めると、役作りはぐっと面白くなります。
何気ない一言にも、その人物にとっては特別な事情があるかもしれません。何度も顔を合わせている相手でも、昨日までと今日とでは、その存在がまったく違って感じられることもあるでしょう。
これまで見落としていたことに気づくと、同じ場面に対しても、新しい興味が生まれます。
人物が見えてくると、やってみたいことが増えていく。
私は、この瞬間がとても好きです。
演技の想像力を広げるには、一つの人物像に決めつけないことも大切
映画にも舞台にも、それぞれの世界観や脚本の構造、演出上の条件があります。
俳優が何でも好きなように演じてよいわけではありません。作品全体の中で、その人物が何をするのかを考える必要があります。
だからこそ、最初に思いついた一つの解釈だけで人物を決めつけないことも大切です。
「この人物はこういう性格だから、こうするはず」
「この場面は悲しいから、こう表現する」
「以前も似た役を演じたから、今回もこの方向でいこう」
こうした考え方が、知らず知らずのうちに演技の可能性を限定してしまうことがあります。
時代錯誤な表現やステレオタイプを避けていても、つい自分の身近な例、慣れているイメージが先に来てしまうことも…
台本に根拠のある複数の可能性を考え、実際に試してみる。その結果、作品や相手との関係の中で、よりふさわしい選択を見つけていく。
場合によっては、最初の解釈に戻ることもあるでしょう。それでも、ほかの可能性を検討してから選んだ場合には、その選択への理解が深まることがあります。
選択肢が多いことと、演技が散漫になることは同じではありません。
むしろ、いくつもの可能性を考えられるからこそ、何を選び、何を選ばないかという判断が重要になってきます。
現場では、監督や演出家から別の方向を求められたり、共演者から予想していなかった働きかけを受けたりすることもあります。
そんなとき、自分の中に複数の選択肢があり、それらを実際に試せる技術があれば、現場での対応の幅も広がります。
モノローグや長いセリフで、人物の思考と感情の変化についていけていますか?
人物についての理解が深まり、想像力が動き始めると、実際の演技にはどんな可能性が生まれるのでしょう。
分かりやすい例の一つが、モノローグや長いセリフです。
長いセリフを演じるとき、最初から最後まで同じ調子になってしまったり、途中で勢いがなくなったりすることはありませんか。
一生懸命しゃべっているのに、どこか説明を聞かせているようになってしまう。途中から感情を込め直したり、声の強弱を変えたりして、何とか最後まで持たせようとする。
そんなとき、俳優は言葉の長さや、自分がどんなふうにしゃべるかに注意を向けすぎているのかもしれません。
実際の人物は、長いセリフをしゃべる間も、ずっと同じことを考え、同じ感情のまま過ごしているとは限りません。
何かに気づく。相手の様子が気になる。考えていたことが変わる。新たな事情を思い出す。さっきまで重要だったことが、別の出来事によって意味を変える。
人物の思考も感情も、シーンの中で動いています。
俳優が感情を無理に生み出そうとするよりも、役の人物に起きている思考や感情の変化についていくこと。
私は、そこに注目しています。
もちろん、演じているのは俳優自身ですから、自分の身体も、声も、経験も、想像力も使います。
ただ、「ここでは悲しくしよう」「次は怒ろう」と、あらかじめ決めた感情を次々に表現することと、人物として出来事を経験し、その中で変化していくことには違いがあります。
モノローグであっても、相手との関係がなくなるわけではありません。目の前に相手がいる場合もあれば、直接姿が見えない相手や、具体的な状況に向かって言葉を発している場合もあります。
その人物が何を求め、何を変えようとしているのか。
そこが生きているからこそ、長いセリフの途中でも、新たな発見や変化が生まれる余地があります。
長いセリフを最後まで生き生きとしゃべるための演技のスタミナ
舞台でも映像でも、長いセリフを任される機会があります。オーディションでモノローグが求められることもあるでしょう。
セリフを覚え、声に出して練習し、流暢にしゃべれるようになることは必要です。
ただ、言葉がすらすら出てくることと、その人物として最後まで生き生きとしゃべれることは、必ずしも同じではありません。
最初は勢いよく話し始めたのに、途中で単調になってしまう。セリフが長くなるほど、言葉を言い切ることに精一杯になる。相手の反応を受け取る余地がなくなり、用意した表現を順番に並べるようになってしまう。
長いセリフに必要なスタミナは、単に大きな声を出し続けたり、勢いを保ったりすることだけではありません。
人物として考え、感じ、相手に働きかけ続けられること。そして、その変化に身体と声がついていけること。
途中で考えが変わり、相手の言葉や反応によって新たな働きかけが生まれても、身体や呼吸が固まってしまえば、表現できることは限られてしまいます。
一方、身体や声に余裕があっても、人物が何をしようとしているのかが曖昧なら、言葉に勢いをつけるだけの演技になりかねません。
だからこそ、台本読解、人物への理解、身体、呼吸、声、相手とのやり取りを、切り離さずに扱う必要があるのです。
台本読解・身体・声がつながると、演技の可能性はもっと広がる
私が演技を指導する際に大切にしているのは、俳優が持っているさまざまな能力を、実際の演技の中で結びつけていくことです。
台本を深く読めるようになれば、人物の置かれた状況や、相手との関係について考えられることが増えます。
しかし、頭の中でどれほど豊かな世界を想像していても、身体や声を自由に使えなければ、演じる際に選べる行動は限られてしまいます。
逆に、呼吸や身体の使い方が変わり、声の自由度が増すと、これまで試しにくかった表現にも取り組めるようになります。
そして、身体や声の選択肢が増えることで、台本を読んで想像していたことを実際に試せるようになり、人物への理解がさらに深まることもあります。
相手に向かって働きかければ、想像していなかった反応が返ってくる。その反応を受けて、新しい考えや行動が生まれる。
こうして、台本読解で発見したことが身体や声の表現につながり、実践での経験が再び人物への理解を深めていきます。
一つの能力が育つことで、ほかの能力も使いやすくなる。その相乗効果を、俳優自身が実感し、活用できるようにすること。
私が、台本読解だけでなく、アレクサンダー・テクニークを含む身体の使い方、呼吸、声、相手とのやり取りまで総合的に指導しているのは、そのためです。
俳優の課題は、必ずしも一つの分野だけで起きているとは限りません。
セリフが単調になっている原因が、言葉の扱い方だけにあるとは限らない。感情の変化が伝わりにくい原因が、想像力だけにあるとも限らないのです。
以前のモノローグクラスに参加された方から、こんなご感想をいただきました。
「Kaoruさんのクラスでは自分の能力を最大限に使うための方法、考え方をたくさん学びます。とにかく人間としての能力をなまける事なく使う事。ここに具体的に突き進みます。ですからクラスも具体的です。根性論、スピリチュアル、似非科学、出てきません。」
●過去のモノローグクラス参加者のお声
鍬田かおるの演技指導で目指す、次の役にも応用できる力
私自身、英国で演技、演出、ムーヴメントなどを専門的に学び、20年以上、舞台や映像に関わる俳優、歌手、声優などを指導してきました。
また、アレクサンダー・テクニーク教師として、身体の使い方や習慣的な緊張、呼吸、声の問題にも継続して取り組んでいます。
これらの専門性は、別々の知識として持っているだけでは十分ではありません。
俳優が実際に演じているとき、台本の理解と身体の状態がどのように関係しているのか。声や呼吸に起きていることが、相手への働きかけにどんな影響を与えているのか。
そうした関係を見ながら指導できることが、私の強みの一つです。
さらに、舞台と映像の両方を扱ってきた経験から、作品や現場の条件に合わせて、俳優が何を準備し、どこで判断する必要があるのかも重視しています。
私が目指しているのは、俳優が次の作品に出会ったとき、自分で人物への理解を深め、選択肢を考え、実際に試し、必要に応じて修正できるようになることです。
講師の指示がなくても、俳優自身が判断し、演技を発展させていけること。
そのために、今できることを確認しながら、まだ使っていない能力や表現の可能性を継続して育てていきたいと考えています。
2026年11月開催|モノローグ・長いセリフを自分ごとでしゃべる演技クラス
こうした台本読解と演技実践のつながりを、実際に試してみたい方へ。
2026年11月20日(金)・22日(日)に、オンライン台本読解と少人数制スタジオ演技実践クラスを開催します。
今回のテーマは、モノローグや長いセリフを、役の人物として最後まで生き生きとしゃべることです。
長いセリフの途中でも、人物の思考や感情の変化についていきながら、相手とのやり取りを成立させることに取り組みます。
オンラインでは、演じるための台本読解を通して人物や場面への理解を深め、スタジオでは、身体、呼吸、声、相手とのやり取りを含めて実践します。
今回のクラスでは、長いセリフをただ言い切ることにとどまらず、人物として考え、感じ、働きかけ続けるための演技のスタミナにも注目します。
これまでの経験を生かしながら、表現の幅を広げたい方や、台本を読んで理解したことを、実際の演技で使えるようにしたい方にもおすすめです。
開催概要
2026年11月20日(金):オンライン台本読解
2026年11月22日(日):少人数制スタジオ演技実践:世田谷区内スタジオ
開催時間、受講条件、参加費、お申し込み方法は、募集記事で詳しくご案内しています。
演技の個人レッスン|継続するからこそ広がる、次の役への可能性
今回のようなクラスで新しい視点を発見したとき、その学びを一度きりで終わらせず、次の作品でも活用できるようにしたいものです。
私の個人レッスンでは、現在取り組んでいる役の準備はもちろん、これまでの経験を生かしながら、まだ試していない表現や技術にも継続的に取り組むことができます。
たとえば、ある作品では台本読解を中心に人物への理解を深め、次の作品では身体や声の使い方に注目することもあるでしょう。
ただし、それらを別々の課題として終わらせず、実際の演技の中で結びつけていきます。
継続して取り組むことで、以前の課題が別の作品ではどう現れるのか、身につけた技術を新しい役でどう応用できるのかも確かめられます。
また、俳優自身が気づいていなかった強みや、新しく挑戦できる表現についても、仕事や経験の変化に合わせて検討できます。
演技の個人レッスンは、仕事で困ったときにだけ受けるものではありません。
次の現場で困ってから準備を始めるのではなく、次のチャンスが来たときに、もっと多くの選択肢を持って臨めるように。
今の仕事のためにも、これから演じる役のためにも、継続して自分の表現を育てていきたい方へ。
個人レッスンの必要性や、専門家と継続して取り組む価値については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
個人レッスンの受講をご希望の方は、現在の活動状況、取り組みたい作品、今後の目標などを専用フォームからお知らせください。
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この記事を書いた講師|演技コーチ 鍬田かおる
鍬田かおる|演技コーチ/アレクサンダー・テクニーク教師
演技指導歴20年以上。
ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ及び、ロイヤル・セントラル・スクール・オブ・スピーチ&ドラマ修士課程卒業。
STAT認定アレクサンダー・テクニーク教師。
英国で学んだ演技、演出、ムーヴメントの専門知識と、アレクサンダー・テクニークによる身体の使い方、呼吸、声へのアプローチを組み合わせ、俳優の表現を総合的に指導。
俳優、ミュージカル俳優、歌手、声優、ダンサーなどを対象に、芸能事務所、演劇・映像の教育機関、個人レッスン、少人数制クラスなどで指導しています。
また、IDC認定インティマシー・コーディネーター(映像)/インティマシー・ディレクター(舞台)としても活動しています。
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演技コーチ/ムーヴメント指導・演出・振付/IDC認定インティマシーディレクター/STAT認定アレクサンダー・テクニーク指導者/スピーチ&プレゼンテーションコーチングActing Coach/Movement Direction/IDC qualified Intimacy Director/STAT certified Alexander Technique teacher, mSTAT, Movement Teaching/Speech and Presentation Coaching


