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「気づいたら直す」では変わらない|身体と声の癖を繰り返さないために

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鍬田かおるが受講者と向き合い、身体と声を使った表現を指導する様子

声を出すたびに、首や喉が固まる。

「もっと力を抜いて」と言われるので、意識して緩めてみる。ところが、次に声を出すと、また同じところに力が入っている。

姿勢を注意されて胸を張り直す。しばらくすると元に戻ってしまい、また気をつける…

歌うときには、難しいフレーズに差しかかると身体を固めてしまう。演奏やダンスでも、いつの間にか肩や腕に余計な力が入り、動きが詰まっている。

俳優なら、相手の言葉に反応しようとした瞬間、いつもの表情やジェスチャー、声の出し方に戻ってしまうこともあります。

一生懸命直しているのに、また同じことが起きる。

そんな経験はありませんか。

私自身、ダンスをやっていたので、姿勢が悪いと言われた事はありませんでしたが、実は、かつては、いつも肩こりや腰痛に悩んでいました。

今思えば、無理に胸を張っていた気がします。

では、もし、その余計な力みや身体の構えを、最初から起こさずに済んだらどうでしょう。

固まってから緩める必要が減る。

姿勢を何度も作り直さなくてもよくなる。声を出すたびに同じ緊張を繰り返さず、身体をもっと自由に使える可能性が生まれます。

そして何より、身体のことばかり気にしていた注意を、歌詞や音楽、相手役、言葉、表現そのものへ向けられるようになるかもしれません。

私が俳優、声優、歌手、ナレーター、演奏家など、身体と声を使う表現者の指導で大切にしているのは、この「起きてから直す」と「そもそも起こさない」の違いです。

つまり、起きてしまったことを後から直すより、そもそも起こさずに済むようにする、という発想です。

「気づいたら気をつけています」では、なぜ変わらないのか

身体の使い方についてお話しすると、「気づいたときに、意識しています」とおっしゃる方がいます。

でも、そもそも気づけないことが問題だったはずです。

例えば、冷房の音。

最初は「ずいぶん音がするな」と思っていても、しばらくすると気にならなくなります。冷蔵庫のモーター音もそうですね。音は鳴っているのに、一日中その音を意識しながら暮らしているわけではありません。

耳が悪くなったわけではありません。繰り返し続く刺激に慣れ、普段は意識に上りにくくなっているのです。

自分の家の匂いが自分では分かりにくいのも、少し似ています(笑)。

足を組むときも同じです。いつも右足を上にしている方が、反対の足を上にすると、なんだかしっくりこない。いつもの組み方には、ほとんど違和感がありません。

初めは違和感があったことでも、繰り返すうちに慣れていく。いつの間にか、それが「しっくりくる」「自分らしい」と感じられるようになります。

そして、自分らしい、親しみのある感覚については、どんどん鈍感になっていく。

いつも肩が上がる。声を出そうとすると首を固める。気づくと足を突っ張っている。緊張すると顎を前に出す。

こうした反応が長年続いていると、本人にとっては、それがいつもの自然な状態になってしまいます。

「気づいたら直そう」と思っても、意識が高いだけで、気づけないからこそ困っていたはずなのです。

気づいてから防ぐのではなく、防ぐから気づける

自分の癖に気づけるようになってから、いつもの反応を防ごうとする。それでは、なかなか先へ進めない場合があります。

長年繰り返してきた身体の使い方は、あまりにも馴染みがあり、違和感そのものを感じにくくなっているからです。

だからこそ、いつもの反応を実行することを防ぐ。

声を出そうとしたときに、いつもの首の固め方を繰り返さない。

動こうとしたときに、普段の身体の構えをそのまま実行しない。

そうした違いを実際に経験することで、初めて「普段、自分はこんなことをしていたのか」と気づくことがあります。

今まで当たり前だった感覚が、少しずつ変わり始める。

その違いを感じ取れるようになると、自分の身体や声の使い方について、それまで持てなかった選択肢が生まれます。

気づいてから防ぐのではありません。

防ぐからこそ、気づけるようになる。

私が長年指導しているアレクサンダーテクニークでも、こうした習慣的な反応を起こさないことを「インヒビション(Inhibition)」と呼び、大切にしています。

気づいてから直すことを繰り返すより、まず、いつもの反応を防ぐ練習をするのです。

例えば、声を出そうとするたびに首を固める習慣があるとします。

声を出してから首を緩めることを繰り返していれば、そのたびに首を固める反応をいったん実行しているかもしれません。

声を出したあとだけではなく、声を出そうとした瞬間に何が起きているのか、ということです。

私たちは、何かをしようとする刺激を受けると、慣れ親しんだ反応へ非常に速く進んでしまうことがあります。

その自動的な反応を実行しないことによって、これまでとは異なる身体の使い方を経験する余地が生まれます。

これは、ただ脱力することでも、無理に姿勢を正すことでもありません。実際に身体を動かしながら、自分の習慣的な反応に気づけるようになっていく練習です。

繰り返し取り組むことで、歌いながら、踊りながら、芝居をしながらも活用できるスキルになっていきます。

身体と声の使い方が変わると、表現はどう変わるのか

歌手なら、声の響きや呼吸だけでなく、歌詞や音楽の変化をより豊かに届けたい。俳優なら、いつもの表情やジェスチャーを繰り返すのではなく、相手との関係や、その瞬間に起きていることに応じて表現を変えていきたい。声優やナレーター、演奏家、ダンサーにとっても、自分の身体の使い方が表現の選択肢を狭めていないかは、大切な問題です。

役の人物を掘り下げるなら、演じる自分自身のことも知っておきたいものです。気づけば肩が上がり、足を突っ張り、いつもの表情に戻ってしまう。そんな習慣に縛られていたら、せっかく台本や音楽から受け取ったものも、十分に表現できないかもしれません。

自分では当たり前になっている反応を見直すことで、これまでとは違う動きや声、表現の可能性が広がっていきます。

役の人物を掘り下げる前に、まず自分を掘り下げる

俳優は、役の人物についてさまざまなことを考えます。

何を望んでいるのか。どのような経験をしてきたのか。相手との関係はどうなっているのか。

台本を読み、想像を広げ、人物を掘り下げる。

けれど、その人物を演じるのは、自分自身の身体です。

自分の肩がひとりでに上がってしまう。気づいたら足を突っ張っている。相手に何かを伝えようとすると、首や顔を固めてしまう。

そんなことが繰り返し起きているのに、本人にはなかなか気づけない。

その状態で豊かな人物像を考えていても、実際に演じてみると、いつものジェスチャー、いつもの表情、いつもの声の出し方に戻ってしまうことがあります。

役の人物として違う方法を使いたい。相手役の変化をもっと受け取りたい。その場で感じることや考えることが変わり、身体や声、表情にも思いがけない変化が生まれてほしい。

それなのに、いろんな方法を使いたくても、自分で自分を固めてしまっている。

そんな状態では、気持ちもなかなかめくるめいていきません。

だからこそ、役の人物を掘り下げる前に、まず自分を掘り下げないといけないでしょう?

ここでいう「自分を掘り下げる」とは、過去の経験や心理だけを分析することではありません。

実際に演じる自分の身体が、何をしようとするときに、どんな反応を繰り返しているのか。その習慣によって、どのような動きや反応が難しくなっているのかを知ることです。

役の人物への理解と、自分自身の身体への理解は、互いに影響しながら深まっていきます。

身体の使い方が変わることで、台本から読み取ったことを演技として実現するための選択肢も増やしていけるのです。

緊張を手放せるからこそ、緊張を表現に使うこともできる

もう一つ、誤解してほしくないことがあります。

身体の緊張は、すべて取り除けばよいというものでもありません。

例えば、いつも身構えている人物。肩をすくめ、呼吸を狭め、身体を小さくしている人物。反対に、必要以上に胸を張り、周囲を威圧するような人物。

そうした身体の使い方が、役の人物を表現する重要な要素になることもあります。

自分の肩が無意識に上がってしまうのと、役の人物として肩を上げて身構えることを意図的に選ぶのとでは、同じような動きでも意味が違います。

普段から無意識に緊張していれば、それを手放すことも、必要なときに使い分けることも難しくなります。

俳優のジェシカ・チャステインも、ジュリアード音楽院で学んだ身体の緊張を手放すことについて、インタビューで語っています。

興味深いのは、身体の緊張をただ取り除くのではなく、役によっては、そうした緊張や構えを意図的に表現へ取り入れるという話です。

いつもの癖で身体が固まってしまうのと、役のために自分で選んで使うのとでは、大きな違いがあります。

ジェシカ・チャステインのインタビュー動画を見る(Instagram)

私が指導で大切にしているのも、いつも力の抜けた、柔らかい身体でいることではありません。

必要なときに、必要なことができること。そして、必要がなくなったら、その使い方を変えられること。

身体の自由とは、そうした選択の自由でもあるのです。

アレクサンダーテクニークは、声の問題から始まった

創始者のF. M. アレクサンダーは、もともと舞台で朗誦を行っていた俳優です。自身の声の問題をきっかけに、声を出すときの身体の使い方を観察し、習慣的な反応を見直す方法を探究しました。

私はアレクサンダーテクニークの教師として指導するとともに、彼の著書『The Use of the Self』を『自分のつかい方』(晩成書房、2010年)として翻訳しました。

F. M. アレクサンダー著『自分のつかい方』鍬田かおる訳・晩成書房の書籍表紙
F. M. アレクサンダー著『自分のつかい方』(晩成書房、2010年)/鍬田かおる訳

20年以上にわたり俳優や歌手などの表現者を指導してきた中で、大切にしているのは、学んだことを実際の歌唱や演技、仕事の場面で使えるようにすることです。

自分では気づけないからこそ、専門家による指導に意味がある

長年続けてきた身体の習慣には、本人にとっての違和感がないことがあります。

自分なりに工夫しているのに変わらない。

力を抜こうとすると、かえって別の場所に力が入る。姿勢を正そうとすると動きにくくなる。

そんなときには、今の自分が何をしているのかを、外から丁寧に観察してもらうことが役立ちます。

大切なのは、単に「ここに力が入っています」と指摘して終わることではありません。

専門的な観察と指導のもとで、普段の反応を繰り返さずに済む経験を重ねていく。その違いによって、これまで感じ取れなかったことに気づけるようになり、少しずつ自分で選択できる可能性が広がります。

私のレッスンでは、アレクサンダーテクニークを単独の知識として学ぶことを最終目的にはしていません。

俳優なら台本や相手との関係、歌手なら音楽と歌詞、声優やナレーターなら言葉と状況、演奏家なら実際の演奏に必要な動きへとつなげながら、一人ひとりの課題を見ていきます。

自分の身体と声をより自由に使えるようになることは、表現の幅を広げるだけでなく、仕事の条件が変わったときに自分で調節し、対応していく力にも関わります。

稽古場でも、撮影現場でも、本番でも、自分で気づき、判断し、選べること。そのためのトレーニングです。

身体の感覚と表現の選択肢を、さらに広げたい方へ

私はアレクサンダーテクニークに加えて、ラバン/エフォートなどの身体を使ったトレーニングも、長年にわたって俳優や歌手への指導に取り入れてきました。

感覚の幅を広げ、それを実際の演技や歌に結びつけることについては、こちらの記事でも詳しく書いています。

俳優・歌手のためのラバン/エフォート|演技と歌に使える「感覚の物差し」を育てる

身体と声の使い方を、個人レッスンで見直したい方へ

「自分では力んでいるつもりがないのに、同じところを指摘される」

「声の響きや呼吸をもっと自由にしたい」

「役が変わっても、動きや表情が似てしまう」

「演奏や歌唱のために、今の身体の使い方を見直したい」

「現場で活動しているからこそ、今の自分の選択肢をさらに増やしたい」

こうした課題について、ご自身の仕事や目的に合わせて個別に取り組みたい方には、個人レッスンがあります。

俳優・声優・ナレーター・歌手・ミュージカル俳優・演奏家など、身体や声を仕事で使う方、またプロとしての活動を目指してトレーニングしている方を対象に、随時受け付けています。

姿勢、呼吸、発声、声の響き、身体全体の使い方など、ご本人の習慣や仕事上の課題に応じて扱います。必要に応じて、現在取り組んでいる台本、歌唱曲、ナレーション原稿などを使って進めることもできます。

個人レッスンは世田谷区内のスタジオで行っています。会場の詳細は、ご予約確定後にご案内します。

個人レッスンの役割や、どのような課題に取り組めるのかについては、こちらもご覧ください。

演技に、個人レッスンって必要ですか?|俳優・歌手・声優の準備を整える時間

ご自身の現在の活動や課題、取り組みたい内容を添えて、専用フォームからお申し込みください。

個人レッスン専用お申し込みフォームはこちら

11月3日(火・祝)身体と声のセミプライベートレッスン

2026年11月3日(火・祝)13:00〜15:30には、身体と声のセミプライベートレッスンを開催します。

俳優・声優・歌手など、身体と声を仕事で使う表現者を対象に、少人数で実際に動き、声を使いながら、普段とは違う身体の使い方や感覚を経験するクラスです。

自分自身の取り組みに加えて、ほかの参加者の変化を観察できることも、少人数で学ぶ価値の一つです。

参加費は10,000円、定員は最大5名です。

詳細とお申し込み方法は、別途公開する募集記事でご案内します。

今後のクラス案内は公式LINEでもお知らせしています

身体と声、演技、台本読解など、今後のクラスやレッスン情報を受け取りたい方は、公式LINEもご利用ください。

新しいクラスの募集や開催情報を、必要なタイミングで確認していただけます。

鍬田かおる公式LINEはこちら

個人レッスンのお申し込みは、上記の専用フォームをご利用ください。

著者プロフィール|鍬田かおる

演技コーチ/アレクサンダーテクニーク教師/インティマシー・ディレクター(舞台)/インティマシー・コーディネーター(映像)。

桐朋学園芸術短期大学演劇専攻卒業。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ(Goldsmiths, University of London)で演劇・舞台芸術を学び、学士号を取得。ロイヤル・セントラル・スクール・オブ・スピーチ・アンド・ドラマ(Royal Central School of Speech and Drama)修士課程卒業。

20年以上にわたり、俳優・声優・歌手など、身体と声を使う表現者の指導に携わる。

F. M. Alexander著『The Use of the Self』の日本語訳『自分のつかい方』(晩成書房、2010年)を担当。

台本読解、演技、身体と声のトレーニングを横断し、一人ひとりの習慣や課題を観察しながら、実際の表現につながる指導を行っている。

日々の演技指導や身体・声に関する発信は、Instagram(鍬田かおる・演技指導)でもご覧いただけます。

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