目的を考えているのに、演技がはっきりしない理由
演技を少しかじったことがある方なら、一度は「目的が大事です」と言われたことがあるはずです。
私自身、小学生の頃から芸能事務所のレッスンで、また俳優の先生の演劇教室でも口を酸っぱくして言われていました。
相手に何をしたいのか。
何のためにこのセリフを言うのか。
この場面で何を変えたいのか。
たしかに、これは大事です。
でも実際には、目的を考えているのに、なぜか演技がはっきりしないことがあります。
言っていることはわかる。
考えてもいる。
それなのに、場面になるとぼんやりする。
やり取りが生きてこない。
相手に何をしているのかが弱い。
結果として、印象に残りにくい。
こういうことは珍しくありません。
それは、目的が足りないというより、目的だけを見てしまっているからかもしれません。
目的を考えているのに、やり取りがぼやける人がいます
目的を考えること自体は間違っていません。
引き止めたい。
認めさせたい。
謝らせたい。
黙らせたい。
助けてほしい。
逃げたい。
こうした目的が見えると、たしかに場面の方向は出ます。
でも、それだけではまだ演技は立ち上がりません。
なぜなら、目的はあっても、今何が起きていて、相手に何をしているのかが曖昧なままだと、言葉がふわっとしたままになるからです。
方向はある。
でも輪郭がない。
それが、目的を考えているのに演技がはっきりしない状態です。
このことについて、考えが及ばなかったのか、演技については、ロンドン大学の演劇化に進み様々なメソッドを体験する中でも、悩んだままでした。
目的だけ見ても、場面はまだ動きません
ここはかなり誤解されやすいところです。
目的を考えた。
だから準備できた。
だからあとは感情を深めればいい。
こう進んでしまう人がいます。
でも、ここで飛ばされやすいのが、「何が起きているのか」「今何をしているのか」という部分です。
たとえば「引き止めたい」という目的があったとしても、
今、相手は帰ろうとしているのか。
怒って背を向けているのか。
もう諦めかけているのか。
何も知らないまま立ち去ろうとしているのか。
この違いによって、場面の質はかなり変わります。
目的は同じでも、起きていることが違えば、こちらがしていることも変わるからです。
この目的がはっきりするためには、行動が必要になります。
そして行動によってのみ目的が正当化される。
(不特定多数の他者から、認知される形になる。)
そのため、この相互作用が重要なのです。
という事は、前提として、必要なのが、「何を」しているのかです
ここで丁寧に見たいのが、「何をしているのか」です。
相手を止めているのか。
問い詰めているのか。
言い逃れしているのか。
ごまかしているのか。
すがっているのか。
押し返しているのか。
信じさせようとしているのか。
思い出させようとしているのか。
この部分が見えていないと、目的を考えても演技はぼやけます。
なぜなら、目的は方向ですが、「何をしているのか」は行為だからです。
場面は、行為が見えたときに具体的になります。
具体は、気持ちではなく「見える動き」「聞こえる音、呼吸、声、言葉」に代表される、繰り返せて伝わる変化のことです。
気持ちや印象の整理だけでは、演技ははっきりしません
目的を考えているつもりでも、実際には気持ちや印象の整理で止まっていることもあります。
私は悲しい。
彼は明るい。
あの人は親切そう。
私は不安を抱えている。
彼女は冷たい。
この場面は重い。
こうした言葉は、間違っているわけではありません。
でも、これだけでは演技ははっきりしません。
なぜなら、これは全部、形容詞だからです。
悲しい。寂しい。
不安。心配。
冷たい。明るい。
重い。チャラチャラしてる。
これだけでは、何をしているのかが見えてこないからです。
そして、何をしているのかが見えないと、結局また外側に戻りやすくなります。
悲しそうに見せる。
不安そうに振る舞う。
冷たく言う。
重たく間を取る。
すると、また演技が曖昧になります。
その上、直接狙っているので、白々らしく、少々あざとい感じにもつながりやすいです。
演技に必要なのは、名詞と動詞です
ここで大事になるのが、名詞と動詞です。
何を守りたいのか。
何を失いそうなのか。
何を隠したいのか。
何を認めさせたいのか。
何を止めたいのか。
何を取り返したいのか。
そして、
止める。
押す。
責める。
ごまかす。
すがる。
隠す。
信じさせる。
黙らせる。
思い出させる。
こうした行為の言葉です。
演技がはっきりしてくるのは、人物の気分が増えたときではなく、相手に何をしているかが見えたときです。
何をしているのかが見えないと、目的も力を持ちません
目的がぼやけるのは、目的の言葉が弱いからではありません。
その前に、「何をしているのか」が見えていないからです。
たとえば「謝らせたい」という目的があっても、
本当に責めているのか。
相手に思い出させようとしているのか。
逃げ道を塞いでいるのか。
自分の正しさを認めさせたいのか。
この違いで、やり取りの質は変わります。
つまり、「何をしたいのか」という目的は、「今何をしているのか」とつながってはじめて働きます。
ここが切れていると、目的を考えているつもりでも、演技は輪郭を持ちません。
目的と行為がつながると、演技の輪郭が出てきます
演技がはっきりしてくるときは、目的と行為がつながっています。
止めたい。
だから、押し返す。
信じさせたい。
だから、言い逃れではなく言い切る。
黙らせたい。
だから、先回りして断ち切る。
引き止めたい。
だから、突き放す言葉の裏で揺れる。
こうなると、表情や声色を先に決めなくても、演技に輪郭が出てきます。
なぜなら、人物が相手に何をしているかが見えているからです。
はっきりしない演技は、感情不足ではなく行為不足かもしれません
演技がはっきりしないとき、多くの俳優はこう考えます。
まだ感情が足りない。
もっと気持ちを深めなければいけない。
もっと役を感じなければいけない。
でも、足りていないのは感情ではなく、行為かもしれません。
何をしているのか。
相手に何を起こそうとしているのか。
何を変えようとしているのか。
ここが見えれば、感情を盛らなくても、やり取りはかなり具体的になります。
逆に、ここが曖昧なまま感情を足していくと、演技はますますぼやけやすくなります。
また、ボリュームが多くなるので、別の記事で解説もしますが、手段を目的にしてしまっている方も意外と多い印象です。
目的ばかり考えていると、演技は観念的になりやすいです
「目的が大事」と言われると、そこばかり考える人がいます。
でも、目的だけを頭の中で握りしめていると、演技が観念的になりやすいです。
私はこうしたい。
私はこう変えたい。
私はこう思っている。
もちろん、それ自体は必要です。
でも、場面は頭の中だけで進みません。
相手がいて、今ここで、何かをしている。
その具体がなければ、目的はただのスローガンになってしまいます。
演技がはっきりしないときは、目的の質より、行為の具体を疑ったほうがいいことがあります。
とにかく具体です。
目的の次に見るべきものを間違えないことが大事です
流れとしてはこうです。
まず、何をしたいのかがある。
でも、その次に見るべきなのは、感情の量ではありません。
今何が起きているのか。
相手に何をしているのか。
ここで何を変えようとしているのか。
そこが見えると、はじめて演技が具体的になります。
目的だけではまだ足りない。
目的の次に、行為を見る。
この順番が大事です。
そして、必ず具体です。
「みえて・きこえて・感じられるから」=「伝わる」のです。
まとめ
目的を考えているのに、演技がはっきりしないことがあります。
それは、目的が間違っているからではなく、目的だけを見てしまっているからかもしれません。目的を設定することが目的になってしまっている。本末転倒です。
演技を、また役の輪郭やシーンの展開をはっきりさせるには、
何をしたいのか。
今何をしているのか。
相手に何を起こそうとしているのか。
ここまで見えている必要があります。
お気持ちや形容詞だけでは足りません。
必要なのは、名詞と動詞です。
目的と行為がつながったとき、演技の輪郭ははっきりしてきます。
次の記事では
次は番外編として、セリフは結果であって、原因ではない、という話を書きます。
文字で書かれているからといって、そこから先に表情や口調を決められるわけではない。
このズレを整理していきます。
クラスでは、こうした読解のズレを実際の台本で扱っています
ここまで読んで、思い当たることがあった方へ。
目的は考えているのに、やり取りになると急に曖昧になる。
自分では考えているつもりなのに、相手に何をしているのかがはっきりしない。
そのせいで、演技の輪郭が弱くなる。
そういう状態を抜けるには、目的だけで終わらず、何が起きていて、相手に何をしているのかまで整理し直す必要があります。
オンラインの台本読解クラスでは、その順番を台本を使って具体的に見ていきます。
何となく考えている状態から抜けて、どこが曖昧なのか、自分で見つけやすくなります。
目的だけを握って空回りする感じが減り、場面の輪郭をつかみやすくなります。
少人数制のスタジオ実践では、整理したことを相手とのやり取りの中で試しながら、ぼんやりした演技を、相手に向かって変化できる演技にしていきます。
現場でも、何をしているのかが見えやすくなる分、止まりにくくなります。
目的は考えているのに、なぜかはっきりしない。
そこを変えたい方は、こうした場も活用してみてください。
4月のオンライン及びスタジオでの実践クラスはもうすぐ締め切りです。
この記事を書いた講師:プロフィール 鍬田かおる
指導歴20年以上。桐朋学園芸術短期大学演劇科、新国立劇場演劇研修所・オペラ研修所、劇団青年座研究所などで長年指導。
ロンドン大学ゴールドスミス校卒。Royal Central School of Speech and Drama 修士課程ムーヴメント科修了。
イギリスSTAT認定アレクサンダー・テクニーク教師。日本演出者協会会員。
俳優や歌手の技術と身体の理解を統合し、現場で使える“交流のある演技”へ導く専門家。大学や映画スクールの講師を務める傍ら、個人レッスンで一人ひとりの強みを伸ばし、基礎力からアップさせる本格的なプロのトレーニングを中心に活動しています。
小学生から中堅、そして芸能の舞台や映像で活躍する俳優や歌手の方のアクティングコーチであるだけでなく、プロを目指す若手の育成も務める。
IDC認定インティマシー・コーディネータ(ディレクター)として映画や舞台の現場も入ります。
これまで触れてきた演技のなんとかメソッドや、〇〇式に疑問を抱かれた方へ
あなたの違和感は、もしかすると「役」にとってのリアリティーではなかったからかもしれません。
また文化的にも、ヨーロッパで過ごした20代がある私、そしてバイリンガルである私が言うのもなんですが、日本を中心に活躍してらっしゃる方、日本語を母国語として多くの時間を過ごしてる方に向き不向きという傾向はある気がいたします。
また実際、目的の異なるイベントというものもございます。
不可思議な単発ワークショップや特定のメソッドだけの誇大広告に疑問を持たれた方、なんちゃらメソッドばかりのプロモーションに違和感を持たれた方、ご自分のせいだと責めないでくださいね。
私の卒業したようなイギリスの演劇学校では、ほぼすべてのメソッドを1年次に全体的に網羅しておりますし、私の師匠のアメリカの演技スタジオでも、基礎(初歩ではない)の知見は皆共有した上で、それぞれの作品、個別に必要なアプローチを応用させ、指導していく形です。
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演技コーチ/ムーヴメント指導・演出・振付/IDC認定インティマシーディレクター/STAT認定アレクサンダー・テクニーク指導者/スピーチ&プレゼンテーションコーチングActing Coach/Movement Direction/IDC qualified Intimacy Director/STAT certified Alexander Technique teacher, mSTAT, Movement Teaching/Speech and Presentation Coaching



