梅雨はクセ毛が困る、演技コーチ 鍬田かおる です。
季節の変わり目にもかかわらず、周囲の俳優や歌手の方の体調は、みなさん管理が行き届いていて、尊敬するばかりです。
先日、4月のクラスに参加された方、そして5月のクラスに参加された方からも、ポジティブなお知らせもあり、クラスにお越しになる方の活躍が嬉しいです。
この勢いに乗って、ますます活発に伸びていかれるのを楽しみにしています。
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さて本日は、長年のテーマ
気になるからこそ、ちょっとずつでも誤解を解いていきたい大事な「感情」についてです。
これ、世界のあちこちで、様々な解釈がありますが、中長期的に健やかに活躍していくため
さらに映像や舞台を問わず、幅広く仕事をしていくためと考えると限られてきます。
じっくり読んでください。
「感情を出せたからうまくいった」――そう思い込んでいませんか?
けれどプロの現場で求められるのは、むしろその感情を「どう調節・調整できるか」です。
どれだけ感情が強くても、伝わらなければ意味がない。
これは、仕事としてやっているなら、避けられない事実です。
そして本当の実力とは、感情をただ瞬間的に、いわば「爆発して」湧かせることではなく、その質やスピード、質、強さ、サイズなどを調整して「作品に応えていく力」です。
もちろん、「いつなのか・どこなのか・誰なのか」といった文脈に待合っている必要があります。
(合わせることができる方のみ、わざとズラすことができますね)
演技力とは、極端なマンガや面白ろパロディーで描かれているような「感情の爆発」ではなく「調節・調整力」が基礎にあります。
今回は、ただ“出せた”かどうかではなく、“様々な場面で、使える状態にあるかどうか”を
そして、演技が本当に上達する方法について書きます。
感情を出すことと、演技が上達することは別物
俳優として「もっと感情を出さなきゃ!」と感じたことはありませんか?
確かに、監督や演出家から
「気持ちが伝わらない」
「ちょっと違うんだよね、雰囲気?」
「そういう意味のセリフじゃないんだよ」
のような言い回し(それに類似したような発言も)をされると、真面目な方ほど、すぐに変えなきゃと思うので、とても多いのは、一生懸命「気持ちを出そう」としてしまいます。
「伝わるように、はっきりさせよう」と言う意味で、強くされる方もいます
「何か違うんだったら、もっと大きくしなきゃ」とサイズを変える方も。
「意味が違うんだったら、きっと気持ちも違うんだろうから、変えてみよう!」とつい力む。
はい、ここから感じない身体の使い方に進みます。
本当に、残念。
でも実は、「出そうとする」こと自体が、演技を不自然にしてしまう原因になることが多いのです。
これは、日常生活の手を振り返ってみれば、明らかだと思います。
隠そうと思っていても、ついぽろっと、一言、不意に出る目線に現れる本音。
社会的に出しちゃ悪いな、出すのは失礼かな、迷惑かもと思って、遠慮がちにいても、じわりじわりと出てしまうもの。それが感情であり、気持ちと呼ばれるものです。
実際、本来、感情は出すものではなく、出ていってしまうものではないでしょうか。
「感情を出す!」そのものを目的化すると、“わかりやすい怒り”や“わかりやすい涙”に寄ってしまいがち。想像の余地が減ってしまい、観客や周囲の想像力を狭め、隙間がなくなり、演技に深みや厚みがなくなってしまいます。
何より、「出そうとがんばる」こと自体が不自然です。
自然にとか、リアルにと言いながら、ここを無視している方は、まだまだ多い傾向です。
大切なのは、「感情を見せる」ことではなく、「相手と関係し、行動し、目的を持って生きている人物として存在する」こと。
その延長線上に、行動に伴う感情、様々な変化に漏れ出ていく気持ちの変化というものがあります。
だからより、その状況や役の事情にリアリティーがありますし、「自分ごと」で動いていけます。
その結果、間接的にかもしれませんが、本当の意味で自然に、そして時に意図せず滲み出て、受け取り手が意味を補うこともありながら、また文脈に沿って、観客の心に刺さるのです。
という事は、順番が後先になりますが、映像でも舞台でも
「台本の構造」を無視した「出そうというがんばり」は奇妙なものになるのです。
あとね、やはりこれまで20年以上指導してきて感じますが….
「出そうと”がんばらないと” 出ない」と感じていらっしゃるなら、根っこに向かいましょう。
漏れでない原因、じわじわ伝わっていかない原因にアプローチしたいということです。
これは身体の使い方、呼吸、発声、発音、想像力、観察力、台本の読解、解釈、構造の分析、個人的な意味付け、サブテキストなど…たくさんあります。
「爆発」ではなく「応答」ができる俳優に
感情を爆発させることは、ある意味 “カンタン”です。
ましてや、繊細な方ならなるほど。
生きていれば、フラストレーションも溜まり、場合によっては様々な記憶もあって、人それぞれです。
そういったものを直接的に、作品に狙って投影して、引火させようというクラスは大昔が多かったような気がします。(今もあるのかな?)
でも、そんなこと、20年前でも、イギリスの大学ですら、そしてトップクラスの演劇学校ではやっていなかったです。(マーケティング的に、キャッチーな文言で、そのようなことを想起させる文章を書く方はいるかもしれません。)
でも実際、「感情の爆発」だけでは、どの人物も似るばかりか、作品の文脈に合っていないことが多々あります。
さらに、場合によっては、一本調子になり、どこかで限界が来ます。
中長期的に活躍するために、むしろ問われているのは、
「いま、この状況に対してどう反応しているのか」という“対応力”ではないでしょうか。
残りの2時間、何してる?
また前提としてあるのが
本当に役の人物自身が、何らかの感情的な爆発、大きな転機をかえていて、突発的に内面をあらわにする事はあっても、大抵いくつかのシーンだけであり、2時間のドラマの中で、数分程度であるという事実です。
ごめんね…。
しかも、主要なキャラクターでないと聞いて、ますますその率は低いですよね…(ますますごめんなさい!)
特殊な演出や、特定のテーマだったとして、20分以上の爆発タイム、連続する感情の興奮ピークは珍しいのではないでしょうか?
そしてその対応の中で、どんな葛藤があり、どんな変化が起きているのか。
「キャラクターとして、その場にどう居るか」の方がはるかに重要です。
演技とは、
“刻々と変わる状況に対応しつづけること・状況を変え続ける働きかけの連続”
でもあります。
だからこそ、一回限りの感情爆発よりも、
「揺れ幅を調整できる力」、「スピードや質を調節できる力」の方が、演技の土台になります。
そして、そこが信頼へつながっていく。
「扱える」とは“何度でも選べる”こと
演技において“扱える感情”とは、ただ一度感じられることではありません。
ただ、1度だけであれば、日常の自分のままで済むはずです。
むしろ、「必要なときに、必要なだけ」
「何度でも、ちょいと違うかたちで」選び取れること。
私はちょっとバスのルートに似てるなって思ってます。
同じ目的地には向かうんだけれど、ルートが違うバスがある。
通るときの状況によって、少し見える風景も違ってくる。
周囲の様子や、一緒に乗っている方たちの組み合わせ次第で、自分のちょっとした気分や態度も幅がある。
その方が、よりリアリティーがありませんか?
私はこういうものの方、現代的にも、自然だと感じています。
声色やセリフの言い方、所作のスピードや感情の大きさではなく、
例えばですが、
・今日は相手のこういうところが気になる、この状況だと、つい目が行く
・この前後関係だと、相手は自分にとってAのように見えてくる、Bのように言葉が聞こえる
・さっきの働きかけを受け取ると、次の方法がちょっと変わってくるなぁ…
このように、演出や意図に応じて、強さや質感を自在に変化させられること。
これができてはじめて、俳優は“作品の一部”として本当の意味で信頼されます。
ご自身の作品の例で、当てはめてみることはできませんか?
「伝わる演技」かどうかが問われている
どんなに本気で “たっぷり感じて”いても、それが誰にも伝わらなければ、そして限られた時間内でないと、なかなか効果が発揮されませんし、影響も少なく、場合によってはあまり意味がありません。
自分のなかで100%感情と呼ばれるものが、もしあったとしても、それが作品の文脈で、描かれている事実や、伝わって欲しい内容として“届く構造”になっていなければ、ただの自己満足になってしまう。
これは厳しいですが、ツラい事実です。
しかし、逆を返せば、ここがクリアできれば、あの集団ヒステリーや不可思議な「感情爆発を繰り返そうとがんばる」必要はありません。
私はそのほうが気楽です。
そして、健やかにいられるので、能力発揮しやすく、現場でも、周囲の方の動向に気づけますし、自分自身も閉じこもらずに、よい状態に持っていったところから、取り組めると思ってます。
俳優や歌手のみなさん、プロを目指す方々は、いかがでしょうか?
大切なのは、「見えるように・聞こえるように・感じていける」状態をつくること。
行き来できること、調節できること、そしていつでも手放せること。
(これはまた別のトンネルあるので、別の記事で)
ただ、ピークに合わせて感情を強く出すことではなく、身体と動き、声のトーン、間合い、視線など、あらゆる要素で“伝えられる仕組み”が信頼できるよう、日々トレーニングしたり、練習を積み重ねることにあると思ってます。
感じる →
→見えるようにする・聞こえるようにする・調節できるようにする
→ 直接狙わなくても伝わる
このプロセスを丁寧に積み重ねることが、演技の実力を飛躍させていきます。
「調節できる力」が信頼と底力につながっている
現場で信頼される俳優とは、「演出家や監督の要望に応えながら、あらわになる部分を調節・調整できる俳優」です。
歌手や音楽家の例で考えてみると、よりはっきりするでしょう。
「つい、声が大きくなってしまった」なんて事はありません。
「うっかり、スピードが20%早くなってしまった」なんて、作品を壊してます。
「もう少し明るさを抑えて」「この言葉の裏にもっと意味!余白」のような抽象的な言葉であっても、どこまで具体的に想像していけるか、そしてそれを自分の身体を通せるか。
恵まれた環境であればあるほど、優れた方も多いですから、限られた時間内に、具体的に“どう調整できるか”が、実力として見られてしまいます。
感情を強く出せるかどうか、ではなく、強さ・方向性・タイミングを調整できるかどうか。
その柔軟性こそが、プロの演技に必要な力です。
“出す”ではなく“育てる”演技へ
感情を“出す”のではなく、育てていく。
まるで普段の私たちのように、ときには隠れ、チラリと漏れて
隠したつもりでもちょろっとはみ出てしまう…そんな本音の部分、面白いですよね。
感覚を“つくり込む”のではなく、“立ち上がってくる仕組み”を準備していく。
これは、俳優自身の身体、呼吸、意図、そして思考の質とつながっています。
レッスンや準備の段階で、この“育つ仕組み”を理解しておけば、現場では焦らずとも滲み出る表現が可能になります。
感情は「頑張って出すもの」ではない。
漏れ出るように、見えるように、育てていくものです。
まとめ:本当に必要なのは「調節力」と「構造を理解する力」
✔ 感情は「出すこと」ではなく「扱えること」が大事
✔ 一度感じた=演技ができた、ではない
✔ 「伝える構造」を知っている人が、演技力がある人
6月の入門クラスで、演技準備の力を高めよう
今回のクラスでは、「どう演技を膨らませるか」ではなく、 「何を膨らませておくべきか」が見えてくるような内容になっています。
構造のある読み方を学ぶことで、 演出家や監督と同じ目線で台本に向き合えるようになります。
・6月22日(日)10:00〜14:00:シーンの構造と読み解き方を学ぶ演技クラス
・ご興味のある方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
◾️6月22日(日)開催|演技が『伝わる』ようになる少人数実践クラスのご案内
●この記事を書いた人:鍬田かおる :
演技コーチ/インティマシー・コーディネーター(ディレクター)
演技指導歴20年以上。プロ俳優・歌手・ダンサーを中心に、感情と身体のつながりを軸としたレッスンを展開中。映画スクールやパフォーミング圧の大学を始め、多様なミュージカル、オペラ、映像、舞台など幅広い現場で指導。
詳しいプロフィールは、HPのプロフィールページからお願いします。
こちらの記事で、目が覚めた!という方もいらっしゃいましたので…
「まず状況を成立させることが大事」と思っていませんか? 演技を“浅い”と言われてしまうときの見直しポイント
ご案内
Instagramでは、簡潔なQ&Aや短いリールを更新しています。
お役に立てるとうれしいです。
https://www.instagram.com/actingcoachkaorukuwata/
取り上げて欲しいモヤモヤ、前から気になっていたことも募集しております。
最新情報
今回の内容に「もっと知りたい」「いつか参加したい」と感じてくださった方へ。
次回のクラス案内はInstagramとLINE公式で最速でお届けしています。
ブログにも詳細を書きますが、少人数制で予約が埋まりやすいため
速報は公式LINE及びストーリーズの方から、現在は出しています。
Instagram → https://www.instagram.com/actingcoachkaorukuwata/
これまで演技のなんとかメソッドや、〇〇式に疑問を抱かれてきた方へ
あなたの感じてきたモヤモヤは、もしかすると「役」にとってのリアリティーが
具体的で意味のあるものではなかったからかもしれません。
また大学、演劇学校、大学院と、イギリス育ち、バイリンガルである私が言うのもなんですが、日本を中心に活躍してらっしゃる方、日本語を母国語として多くの時間を過ごしてる方にとっての、演技メソッドやシステムに向き不向きという傾向はある気がいたします。特に、
・真面目に考え込んでしまう方、好きだからこそ抱え込んでしまう方
・主語不在でも成立してしまう日本語の発想のまま、つい状況を思い描き続けてしまう方
・どうしても頭でっかちになり、言葉ばかりになってしまう熱心で真剣な方
・迷惑をかけてはいけないと、一生懸命ひとりでで頑張りすぎる日本の俳優や歌手
……演劇だけでなく、映画、ミュージカル、オペラでもたくさん見てきました。
こういった方々に必要なのは、今日解説したような「身体と感覚」の入り口であり
想像していることと身体を馴染ませ、変化を歓迎して、他人と共感したり
同調したりできる身体を開くことです。
これは、セラピー的なものでもなく、精神論でもありません。
ダンスや楽器演奏のトレーニングに近い、1種スポーツのような
動きを切り口とした演技のトレーニングによるものです。
物語、演技いうものが、文化に根ざしている以上、言語の壁もあり、
また生活様式や基本的なコミュニケーションのスタイルが大きな誤解をむこともございます。
これはクラシックバレエやオペラの輸入、様々な業種での変遷を見ても、お分かりいただける課題だと思います。
不可思議なワークショップやらの誇大広告に疑問を持たれた方
なんちゃらメソッドに違和感を持たれた方、すべてがご自分のせいだと責めないでくださいね。
(どこの国にも、奇妙なマーケティングや不思議な我流は存在します)
こちらの記事も、ご参考になればうれしいです。
「セリフに気持ちは『のせないで』ください?」— これが演技のリアリティを変える
「6/22(日)のクラスに参加してみたかったけど、どうしてもスケジュールが難しい」
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オンラインでのヒアリングも可能です。
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これらは活躍の場がミュージカル、オペラ、演劇に限らず、映画やテレビ、コマーシャルでも同じくです。
最後に最近、芸能関係、映画関連の方からよく聞かれるトピックーご参考になれば幸いです。
センシティブな題材、キスやハグなどの身体的な接触、いわゆる絡み、昔で言う濡れ場などの振り付け、演出サポートのご相談は、映像作品、映画、テレビ、舞台にかかわらず、下のインティマシー・コーディネーター(ディレクター)こちらのホームページからお願いします。

演技コーチ/ムーヴメント指導・演出・振付/IDC認定インティマシーディレクター/STAT認定アレクサンダー・テクニーク指導者/スピーチ&プレゼンテーションコーチングActing Coach/Movement Direction/IDC qualified Intimacy Director/STAT certified Alexander Technique teacher, mSTAT, Movement Teaching/Speech and Presentation Coaching
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