今回は、もしかすると、これまで言われてきた視点と真逆の発想かもしれないなと、密かにに気づいている演技コーチ 鍬田かおる です。
本日、意を決してついに書いてしまいました。
俳優がやりがちな“誠実な落とし穴” 『役と向き合う』という誤解
「もっと役とちゃんと向き合わなきゃ」
そう思って努力を重ねている俳優は少なくありません。
誠実で、真摯な姿勢。
そうですよね、現実の生活では、きちんと向き合うべきお相手や課題もあります。
けれど、実はその考え方の中に、演技が止まってしまう“落とし穴”が隠れています。
なぜなら「向き合う」という行為そのものが、
役を“自分の外側にある存在”として扱ってしまうからです。
つまり、役を観察し、分析し、評価する立場に立ってしまう。
この時点で、演技のエネルギーは「体験」ではなく「考察」にすり替わってしまうのです。
「向き合う」というのは、そもそも「相対する」という意味。
お互いに正面を向けるということですよね。
しかし、役の人物とその演じ手である自分が向き合って良いのでしょうか?笑
そう、ダメなんです。
向き合えば、批判したくなる。
正面を切って、お互い向き合った(イメージですけど)となれば、評論したくなるものなんです。いわば、欠点を探す感じにもなりかねません…
危ない危ない…
「向き合う」は分析者、「同じ方向を向く」は体験者
俳優が本当に「自分ごと」で行動して、いきいきと演じるためには、
「役と向き合う」よりも、「役と同じ方向を向く」意識が必要です。
つまり、役が見ている世界を一緒に見ること。
ただ相手役や出来事をどう感じているか、ではなく、
何を見て、何を選び、どう行動しているのか。
役の目・役の耳・役の鼻・役の手足、です。
向き合うとき、俳優は“外から”役を理解しようとします。
ここが「どのような人」「どんなふうに」という罠につながっています。
一方、役と同じ方向を向くとき、俳優は“中から”世界を体験しようとします。
昔から言われている「他人の靴を履いてみる」ですね。
この違いが、演技にリアリティを生むかどうかを大きく左右します。
台本と向き合う前に、まず“自分”と向き合う習慣を
台本読解や役の準備段階で多くの俳優がつまずくのは、
「人物像を理解すること」「どんな人か」がゴールになってしまうこと。
でも本来、俳優の仕事は“人物を理解すること”ではなく、
“人物として行動すること”です。
そのためにまず必要なのは、ありきたりに聞こえるかもしれませんが、
役と向き合う前に、自分と向き合うこと。
自分が何を怖れ、どんな価値観を持ち、
どんな時に行動が止まってしまうのか。
どこから来て、どこに向かうのか、さらに言えば、何が緊急で、何が重要なのか。
そうした自分の構造を見つめていくと、役の選択や行動がより深く見えてきます。
誠実な俳優ほど、落とし穴に落ちやすい
真面目で誠実な俳優ほど、「役に誠実でありたい」と思うあまり、
自分との違いを探してしまう傾向があります。
これが正しく、「向き合った」ゆえの弊害です。
けれど、演技の中で“自分のどこか気に入らない部分や都合のよろしくない部分を消す”ことも「どちらか片方の人物の特徴や、様々な要素を減らすことはできません。
どちらもフルの人間で、丸ごとの存在。
フィクションの作品でも、そこに立つのは常に“自分を通した人間”だからです。
大切なのは、ただ自分を抑えることではなく、役の欠点を探すことでもなく
自分というレンズを通して人物の立場から、よく見て、よく聞いて、想像すること。
その瞬間から、台本に書かれている内容に「尋ねたい」ことが変わっていきます。
まとめ
次に台本を開いたら、
「役と向き合う」ではなく「同じ方向を見ているか」と問いかけてみてください。
誠実さゆえに演技が止まっていた人ほど、
この視点の変化が、次の一歩を大きく変えてくれるはずです。
他にも、「セリフは感情の出口ではなく“現象”である」というテーマや、
「“自然に演じる”のが正しいとは限らない」という記事も掲載しています。
あわせて読むことで、演技の構造がより立体的に見えてくるでしょう。
●この記事を書いた人:鍬田かおる
演技コーチ/インティマシー・コーディネーター(ディレクター)
演技指導歴20年以上。留学中のイギリスにて、アレクサンダー・テクニーク指導者資格を正式に取得後、音楽家、ダンサー、声楽家、歌手、俳優らを中心に、20年以上の指導歴がある。映画、テレビ、舞台で活躍する実演家を中心に、感情と身体のつながりを軸としたレッスンと世界スタンダードの台本読解及び分析のクラスをはじめ、演技クラスや各種のプロトレーニング、個別レッスンを展開中。
養成所や研修所等での指導歴を経て、映画スクールやパフォーミング・アーツの大学を始め、事務所等でも指導を進める傍ら、多様なミュージカル、オペラ、映像、舞台など幅広い現場で活躍する歌手や俳優のコーチを務める。
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演技コーチ/ムーヴメント指導・演出・振付/IDC認定インティマシーディレクター/STAT認定アレクサンダー・テクニーク指導者/スピーチ&プレゼンテーションコーチングActing Coach/Movement Direction/IDC qualified Intimacy Director/STAT certified Alexander Technique teacher, mSTAT, Movement Teaching/Speech and Presentation Coaching
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