こんにちは、9月の身体と声のセミ、プライベートレッスン、およびモノローグクラスにご参加くださったみなさま、ありがとうございました。
熱心な方、課題意識がはっきりしてらっしゃる方、ついにレベルアップを決意され、真剣に取り組んでいらっしゃる方ばかりだったので、私も嬉しかったです。
白熱した質問や充実したみなさまのほ回答に、お時間、ちょっと延びてしまいまして、申し訳ありませんでした。
さて、本日は、一種の都市伝説なのかもしれませんが、もったいないと感じる場面もある「ありのまま」についてです。
私もかつて、勘違いしていたなぁと…恥ずかしくはありますが、シェアしたいと思います。
ありのままの魅力、は本当か?
「ありのままの自分でいい」
「自然体こそが魅力」
一度は信じたこと、ありませんか?
俳優や歌手を目指すとき、よく耳にするフレーズです。
ですが、実際の現場では――ただ“ありのまま”でいるだけではプロとして通用しません。
なぜでしょうか?
ちょっと落ち着いて、考えてみませんか。
確かに、その昔、かく言う私も「“自分のありのままの魅力が伝わるって欲しい….”
そう信じたくなる気持ちがあったような記憶うっすらあります。
もしかすると誰にでも、多少あるのかもしれません。
けれど、限られた時間内に、
作品を通じて、本当に観客を惹きつけ、もっとみたい・聞きたいと想起させるのは、
その魅力があちらこちらに【みえて・きこえる】ほどである場合ではないでしょうか。
この「限られた時間内に」他人に伝えるという部分に、仕事の本質が凝縮されていると思います。
(もちろん「自然体」の定義が異なると言う場合もあると思います。)
なぜ「ありのまま」では届かないのか
そのためには、「個性なる神話」を一旦、整理すると良いのではないかと思います。
現実の生活での自分のあり方、価値観、解釈の傾向、身体の記憶をただそのまま役や作品の中で出すのではなく、 技術と準備によって【作品のために】、それこそ【役という他人】のために、掘り下げる必要 がありませんか。
もちろん、最終的に演じたり、歌ったり踊ったりするのは自分です。
しかしながら、多くの場合(これは難しく複雑なので別の機会に存じますが)作品を書いた方も、役も(あて書きは特殊)、スタート地点は、まず他人でしょう。
この「他者への理解」もしくは「自分以外の生き物への興味」には、何らかの歩み寄りと言う語弊があるかもしれませんが、理解したいと努める態度が必要だと感じます。
つまり、ここが矛盾してるのです。
「自分は何もせず、あるがままで、受け入れられたい」
にもかかわらず
「自分は、相手(他人)の方へ向かって歩き出してはいない」
とでも言うのでしょうか。
厳密に言うと、その態度そのままに、他者の視点が欠けています。
その上、極端な例ですが、畑でとってきた大根を洗いもせず、皮も剥かず、火も通さず、下ごしらえせずに、ただそのまま出す。アクやえぐみにも味わいがありますが(大根は生で食べられるよね)、様々な場面で、いろいろな目的を果たそうと思ったら、何らかの手を加えるのではないでしょうか。
私の言いたいこと、伝わったかな?
よくある勘違い
これが難しいところなのですが、事実として
「何もしていないように見える人ほど、実は日々の努力を積み重ねている」
「軽やかに自然に見える人ほど、緻密に身体や声を整えている」
これはどのジャンルのプロにも共通する点があります。
しかも、難しいのが、
・あまりにも好きで、つい何時間も(楽器や歌唱を)毎月たくさん練習してしまう
・憧れが高じて、子どものころから夢中になって、毎日何時間も読書や運動に自ら励んでいる
・(本当の意味で)苦痛を感じない位、とにかく練習したいし、変化が面白いし、周囲の手ごたえもあって、毎週どんどん進んでいく。
という方はあちこちの分野に存在します。
それこそ、スポーツ、語学、武術などでも多くありませんか?
そういう方に限って「特に何もしていない」とか「特別な事は無いかも」のようにおっしゃいます。
そうなんです。
当たり前すぎる事はわざわざ言葉にせず、ましてや親しくない方に打ち明ける方も少ないです。
それが歪んで伝わっていった時、希望的な観測と尾ひれもついて「何もしなくても魅力があればいいんだ」、「やっぱりそのままがいいよね」、「無理して気取るなんてあざとい」、「そんなアピールいらないよ」に類する発想も一部で広まってしまうのかもしれません。
本当の魅力は「磨いて整えた先」にある
大切なのは、持って生まれた素質を無理に隠すことではありません。
むしろ隠そうとしても隠せないものが素晴らしい資質や土台であり、そこを磨くことでさらに魅力は出ていくと考えます。
例えば、不必要な癖やよけいな緊張を手放し、しっかりとした技術で支えることで、本来の魅力が際立つ。
具体的には、
・セリフがしっかり相手にかかっていて、国語の意味以上の内容が伝わる
・大切な場面で余計な力みを避け、滑らかに動けて、スムーズな身体
・演出の意図を理解し、効果までつながる、しかも繰り返し再現できる表現…
これらが整ってはじめて、「あたかも自分事のように見える演技」や「説得力のある行動」、「つい夢中になるような俳優(歌手)」が成立します。
つまり、これは全く「ありのまま」ではないのです。
もう一つの難しさ
卓越したスキル、長年の専門的なトレーニングや突出した特殊技能によるパフォーマンスは、スポーツでも、音楽でも、ダンスでも、「あたかも簡単にできそう」「いかにも自然」に見せたり、聞こえたりする作用を備えています。
これも誤解の元になっているのかもしれません。
私も素晴らしいオペラ公演をみては、なんだか身体の調子が良くなった気になり、声が出るような気がします(実際、出ません)
スポーツや音楽も、見ていて興奮して、そこから趣味としてスタートされる方も多いですね。
ここで用意したいのが、ズバ抜けている、すでに結果を出している方々が言葉で説明する内容と、実際に毎週毎月やってらっしゃる内容にギャップがある場合も存在するという事。
すごく多いのが、自分は「何でもないこと、みんなもやってるよね?」と当たり前のように、トレーニングメニューを工夫していらっしゃり、その質も量も高い場合。
大きなギャップが存在すると思いませんか?
特別なことをしていないと言いながら、ジム通い、ランニング、日常の姿勢、習い事の数々、移動中の時間の使い方….卓越してる方はたくさんいらっしゃいます。
演技指導20年+の現場から見えてきたこと
私は20年以上にわたり、俳優や歌手のレッスンを通じて、「ありのままの神話」による行き詰まりを何度も目にしてきました。
これは本当にもったいないことだと思います。
「気持ちさえあれば演じられる」「もっと自分に素直に」のような形で、なんとなく信じていた方が、身体と声を整え直した途端、一気に、苦手が減り、余計なこだわりがなくなって、表現の幅を広げる瞬間。
「練習ではできるのに本番で力む」方が、動きの習慣を変えたことで、舞台でも映像でも安定して力を発揮できるようになった例。
“ありのまま”に頼るのではなく、準備と訓練によって自分の可能性を開くことは、ジャンルを問わず、キャリアを伸ばす確かな道筋です。
ありのままは、専門の知識の集積や、素晴らしいトレーニングを経てもなくなったりしません。むしろ、ありのままが「活かされる」ように、さらに際立つよう助けてくれるものです。
次のステップへ
「ありのまま」で止まっていた壁を越えたいと感じる方へ。
まずは自分の身体と声を整理し、整えるところから始めてみませんか。
10月の動きと声のセミプライベートレッスンや多くの歌手俳優に指示されている個人レッスンでは、
・癖や緊張の手放し方と応用、意識の活かし方
・「つたわる」声と動きの実践、限られた時間内に準備する方法
・オーディションや本番に直結する表現の整理、苦手を減らし、得意を伸ばす方法
こうしたテーマを、一人ひとりに合わせて指導しています。
あなたの“ありのまま”が本当に輝くために。
整える一歩を、今から踏み出してください。
ありのまま、とは「放っておく」という畑の野菜ような意味では無いのですから。
●この記事を書いた人:鍬田かおる
演技コーチ/インティマシー・コーディネーター(ディレクター)
演技指導歴20年以上。留学中のイギリスにて、アレクサンダー・テクニーク指導者資格を正式に取得後、音楽家、ダンサー、声楽家、歌手、俳優らを中心に、20年以上の指導歴がある。映画、テレビ、舞台で活躍する実演家を中心に、感情と身体のつながりを軸としたレッスンと世界スタンダードの台本読解及び分析のクラスをはじめ、演技クラスや各種のプロトレーニング、個別レッスンを展開中。
養成所や研修所等での指導歴を経て、映画スクールやパフォーミングアーツの大学を始め、事務所等でも指導を進める傍ら、多様なミュージカル、オペラ、映像、舞台など幅広い現場で活躍する歌手や俳優のコーチを務める。
詳しいプロフィールは、HPのプロフィールページからご覧いただけますと光栄です。
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「まず状況を成立させることが大事」と思っていませんか? ー演技が“浅い”と言われてしまうときの見直しポイント
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演技コーチ/ムーヴメント指導・演出・振付/IDC認定インティマシーディレクター/STAT認定アレクサンダー・テクニーク指導者/スピーチ&プレゼンテーションコーチングActing Coach/Movement Direction/IDC qualified Intimacy Director/STAT certified Alexander Technique teacher, mSTAT, Movement Teaching/Speech and Presentation Coaching