さて、「説明演技」なるものの解説は後日丁寧にするとして、本日は差し迫っている問題。
最近は、スタッフの方とのますます交流も増えてきて、芸術の秋が楽しみな演技コーチ 鍬田かおるです。
「いかに自分ごと」にしていくかの入り口についてです。
ここがズレていると、様々な現場に行って、多くの作品に取り組んでいても、ちょっとお恥ずかしい、状況を説明するようなセリフ回しになってしまうことも。
またここが解決しないと、いかにも気持ちを表しているような所作をそのままなぞってしまい、「実感を伴う」ところまで行けない俳優や歌手の方も多い傾向です。
さて、演技は、“説明”からは始まりません。
すべては、書かれていることから、書かれていない部分まで、
そして目の前の出来事を次々と【想像する力】から始まります。
それもただ想像するだけではなく、連想していきますし、しかもそれを個人的にしていきます。
例えば、現実の世界で私たちも、自分の生い立ちや受けた教育、周囲の方々の価値観に否応なく影響されながら、想像も膨らませています。
極端な例で言うと、食べたことないものを想像するときは、どうしても食べたものがある味との比較になります。褒められた経験、楽しかった思い出、怖かった出来事…
これらの全てが影響しているのは、誰しも納得できると思います。
しかし、
なかなか手応えがないシーンに直面すると、
「もっと具体的に」と思えば思うほど、つい現場は急いでいますから、
「この役って、こんなふうに食事してるんじゃないかなぁ」
とか
「こういう怒り方する人っているよね」
「多分、こういう喋り方でさぁ、この大事なセリフが…」と突然、令和の〇〇区在住の日本人(自分の年齢等達とバックグラウンド)が出てきて、その価値基準で決断をしてしまいます。
台本を最初の頃に読んだときにそこが出てくるのは構わないのですが、
もうセリフを入れる、相手と一緒に立ってという段階になって、
その誤った「自分ごともどき」をしていると行き詰まります。
そういう方ほど、セリフも動きも状況には合っているのに、どこか他人事に見える。
大げさであったり、子どもっぽかったり、奇妙に見えることもしばしばあります。
なぜなら、あなたが想像しているときに、
・心の目で見ているもの
・心の耳で聞いているもの
が、まだ役の人物の優先順位や、価値観に目指していないからです。
「役が見ているサイズで見る」
他人といえども、自分がキャスティングされた任されている、役です。フィクションの世界ですが、
ご自身の中に何らかの小さな種でも良いので、要素があると考えた方が進めやすいでしょう。
「役が見ているサイズ感」で子どもの手やお母さんのシワ、思い出の椅子や、重要な時計を見ませんか?
自分のまま見ている時より明るく見えたり、輝いて見えることがあるはずです。(催眠ではありません)
この個人的なにするプロセスを経ると、動きたくなる衝動や、言葉が必要になる感覚を体験した瞬間、本来であれば、ご自身のよけいな力がスッと抜けていくのを感じるはずです。
「役に聞こえている言葉」
ただ、熱心にセリフをちゃんと聞こうとする。これは仕事の態度としては正しいけれど、演技は深まりません。なぜなら、役の人物は聞こうとしていない。場合によっては聞きたくないと思っていることも。
それが人間らしさであり、演技の面白さでもあります。
こういうところを一つ一つ、丁寧にやりましょう。
実際の私たちの生活でも、聞き間違えとまではいかなくても、聞いた「後に解釈」するときに、
強烈に感情の癖や生い立ちのパターン、目指している目標や大きな目的に影響された意味付けをしています。
ここをやらないと、「セリフをちゃんと聞いている俳優」が存在してしまいます。
それが人間らしさであり、演技の面白さでもあります。
様々な役の悲しみ、怒り、戸惑いも、ワクワクも――考えるより先に出てくるには、本人の【目と耳】で世界を想像することが欠かせません。
理屈の理解ではなく、“当事者の感覚”が動きを決めていきます。
つまり、役を理解するというのは、「論理的な思考」を納得するだけでなく
どんな感覚的な世界・心象風景に住んでいるのか?
を自分の身体を丸ごと使って感じようと努めていくプロセスなのです。
作品次第、そしてその日の状態や役次第で、行動を変えるのが先でも、視点を変えるのが先でも構いません。
大切なのは、出来事の渦中に自分がいるかどうか。
ちゃんと「目も耳も」本人化させていこうとしているかです。
「本人の目や耳」から目の前で電車の扉が閉まってしまう瞬間、火が燃え移っていく様子、大切な方の叫び声、あれから10年会っていない友達の背中を想像した瞬間、すべてがムクムクと動き出します。
俳優が動けるのは、単にセリフとその状況によって心が揺れたからではなく、
状況が“見えて・聞こえる”から。そしてその延長線上に、言葉が必要になっていきます。
台本を読んでも、「なぜこの言葉になるのか」が見えないまま進んでいませんか。
感情を込めても届かない。
そんな壁を感じる瞬間は、突き抜けたい志の高い俳優や歌手なら誰でも一度はあります。
でもその原因は、気持ちの“足りなさ”ではなく、構造の“見落とし”にあることが多いのです。
感情ではなく構造を味方につけたとき、セリフは初めて本当の意味で活きはじめます。
演技の説得力は、ただ感情の量だけでは決まりません。
どれだけ気持ちを強く持っても、台本の中で
「なぜその言葉が、いま、ここで必要になるのか」がわからなければ、セリフは空を切ってしまいます。
台本は、俳優が状況を感じるために読むものではなく、
理解したうえで、「役として見聞きして、感じられる」ようにするための設計図です。
言葉の裏にある構造を読み取る力があれば、感情はあとから自然に立ち上がってきます。
俳優の身体が動くのは、構造を理解した瞬間です。
理由のない衝動はすぐに消えますが、構造に支えられた行動は、何度繰り返しても、揺らぎません。
だからこそ、調節ができますし、演出の効果を踏まえて、映像でも舞台でも、調整していけます。
セリフを活かすとは、文字をいい声や流暢な喋りにただすることではなく、
その言葉が生まれる流れを理解して、しかもそのプロセスを、何度も通過できること。
(単なる繰り返しではありません)
次に台本を開いたら、状況とセリフの意味を考える前に、
その瞬間、自分の目と耳には何が見えていて、何が聞こえているのかを想像してみてください。
「映画の予告編」のように
当事者の感覚が見つかったら、言葉は自然と“活きる”方向へ動き出します。
例えば、映画の予告編では、ダイジェストで、主人公(や視点になっている人物たち)の目に飛び込んだものが大きくなったり、小さくなったり、またスローモーションになっていたり、過去と未来を行き来したり、すごく個人的に切り取られています。
インパクトの大きいもの、影響を何に与えているか、どこからどこに影響があったのか、ここが1つの指針になってます。
想像が構造を導き、構造が感情を導く。
その循環を整えることこそが、俳優の基礎体力です。
気持ちの“足りなさ”ではなく、構造の“見落とし”を埋めて、
感情ではなく構造を味方につけたとき、セリフは初めて本当の意味で活きはじめます。。
感情を信じる前に、構造を信じる
どんなに優れた俳優でも、自分の感情だけで作品を支えることはできません。
セリフや間、関係性、いわば現象の変化です。それらを支えるのが構造です。
構造を読むことで、俳優は感情をつくる側から見つける側に変わります。
だから分析は冷たさではなく、温度を生み出すための技術です。
台本を読むとき、「なぜこの言葉が必要なのか」を一つひとつ見つけてみてください。
理由が見えた瞬間、セリフは活きはじめます。
ぜひご自身の作品にも、取り入れてみてください。お役に立てたら嬉しいです。
●この記事を書いた人:鍬田かおる
演技コーチ/インティマシー・コーディネーター(ディレクター)
演技指導歴20年以上。留学中のイギリスにて、アレクサンダー・テクニーク指導者資格を正式に取得後、音楽家、ダンサー、声楽家、歌手、俳優らを中心に、20年以上の指導歴がある。映画、テレビ、舞台で活躍する実演家を中心に、感情と身体のつながりを軸としたレッスンと世界スタンダードの台本読解及び分析のクラスをはじめ、演技クラスや各種のプロトレーニング、個別レッスンを展開中。
養成所や研修所等での指導歴を経て、映画スクールやパフォーミング・アーツの大学を始め、事務所等でも指導を進める傍ら、多様なミュージカル、オペラ、映像、舞台など幅広い現場で活躍する歌手や俳優のコーチを務める。
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10月クラスで学べること
10月のクラスでは、俳優が“感じる前に理解できる”ように、台本の構造を読み解くトレーニングを行います。
感情ではなく構造から入ると、セリフが活きる瞬間が訪れます。
🖥️オンライン台本読解クラス
10月24日(金)19:30〜22:30
📍都内スタジオ実践クラス
10月25日(土)13:00〜17:00
10月26日(日)14:00〜18:00
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演技コーチ/ムーヴメント指導・演出・振付/IDC認定インティマシーディレクター/STAT認定アレクサンダー・テクニーク指導者/スピーチ&プレゼンテーションコーチングActing Coach/Movement Direction/IDC qualified Intimacy Director/STAT certified Alexander Technique teacher, mSTAT, Movement Teaching/Speech and Presentation Coaching
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