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演技は感情ではなく行動です|当事者性を勘違いしている俳優へ

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気持ちはある。
考えてもいる。
役に対して不誠実なつもりもない。

それなのに、なぜか届かない。

プロを目指す、またプロとして突き抜けていきたい方が形を変えながらも、ぶつかりやすい壁の1つです。

例えば、現場で、もっとリアルに、とか

リアリティーを伴って、それこそ当事者性を、と指摘があった。


でも本人としては、むしろ自分ごととして向き合いすぎて苦しいくらいかもしれません。

ちゃんと感じている。
ちゃんと考えている。
それでも、セリフが相手にかからない。
こちらは動いているつもりなのに、外から見ると何も起きていないように見える。

このズレは、真面目にやってきた俳優や歌手の方ほど、つらいものです。

多くの場合、

ただ雑だからではありません。
いわゆる努力が足りないからでもありません。
むしろ逆です。

向き合ってきたからこそ、どこで噛み合わなくなったのかが見えにくいのです。

がんばる方向が、ご自身の目的や現代の変化に合致しない場合、とても辛くなってしまうからです。

と、いうわけで、

ここで一度、演技の土台そのものを整理しておきたいと思います。

演技は、感情を見せる作業ではありません。
相手に向かって何かを起こそうとする行動です。

この前提が曖昧なままだと、当事者性まで内向きにずれていきます。

私たちが、素晴らしい映画やミュージカルの名作、それこそコンサートやスポーツでも、大きく揺さぶられる時、それは「感情を見た」からでしたか。

違いますよね?

感じているのに伝わらないのは、珍しいことではありません

これまで20年以上、プロの俳優や歌手、ダンサー、そしてプロを目指す若手を育成してきましたが、様々な段階の演技の相談で本当によく出てくるのが、この悩みです。

ちゃんと感じているのに浅く見える。
気持ちはあるのに、なぜか相手に届かない。
自分では真剣なのに、ひとりでやっているように見える。

「自分の中ではあるんです」、「自分はちゃんと感じてる」

のようなモヤモヤを抱えています。

でも、ここで落ち着いてって考えましょう。

ここで起きているのは、感情そのものの不足ではありません。
一般的に言われるような、気持ちが弱いわけでもない。


問題は、感情の使われ方、現れ方です。

内側でどれだけ動いていても、それが相手への働きかけに変わっていなければ、客席にもカメラにも伝わりません。

「みえない・きこえない・つたわらない」

どんなに自分自身は、いっぱいになっていたつもりでも、他人の感覚にまで届いていないのです。

ご自身にお気持ちがあることと、演技として、作品の文脈で届くことは別です。

ここを混同すると、俳優はどんどん苦しくなります。
もっと感じようとする。
もっと深く入ろうとする。
もっと自分の中で盛り上げようとする。

けれど、そこを足していくほど、相手が消えることがあります。

そうです、「1人になっている」、「一緒にやってない」のようなダメ出しに代表される状態です。

演技の輪郭を作るのは、感情より先に行動です

本人の意図はさておき、

演技が浅く見える場面では、気持ちを見せようとする動きが先に立っていることが少なくありません。

悲しいから、悲しそうにする。
怒っているから、怒った言い方をする。
切ないから、切ない表情をつくる。

こうやって先回りして、説明してしまう。

結果として、そう見えること、そのように聞こえる瞬間はもちろんあります。
ただ、それを最初から狙い始めると、演技は一気に説明っぽく、しらじらしく、とってつけたようになります。

なぜなら、そこで観客に見えているのは、相手への働きかけではなく、自分の状態の提示だからです。

実際、私たちが現実の世界で、自分や自分の周囲の人の問題の解決に向かっている時、当事者として葛藤したり、悩んだり喜んだり一緒に興奮している時、「見せよう」とも「聞かせよう」とも狙っていなかったはずです。

演技で問われるのは、今、どんな気持ちかだけではありません。
その気持ちが原動力になるような目的が何なのか、どの行動を使って、相手に何をしているかです。

「方法」と言い換えても良いかもしれません。

例えば、

引き止めたい。
黙らせたい。
安心させたい。
揺さぶりたい。
試したい。
近づきたい。
切りたい。
ごまかしたい。

こうしたものが、行動です。

そして、その後に、なぜならば…、可能性として…、と根っこへ近づいていきます。

感情は目的へ向かってくれます。
でも、客席や相手に見えるのは運転手である感情そのものではありません。

何を起こそうとしているか、見える動きや聞こえる音に伴う行動です。

当事者性は、内側に深く潜ることだけでは生まれません

当事者性という言葉は便利ですが、かなり誤解されやすい言葉でもあります。

もっと当事者性を、と言われたときに、もっと深く感じなければいけない、もっと自分の中に入らなければいけない、と受け取る俳優は多いです。

まるで自己暗示のようになってしまう。

けれど、当事者性は、ただ気持ちに没頭することと同義ではありません。

当事者性とは、その状況に本当に関わっていることです。

自分の出来事として、その場に立って、みて、きいていること。
その場で、相手の反応を受けて、選択が揺れること、選び直すこと。
いわゆる状況の圧から逃げずに、そこで何かをしようとしていること。

ここで大事なのは、自分ごとであると同時に、相手ごとでもあることです。

自分だけ熱くても足りません。
相手が見えていなければ、当事者性は立ちません。

本当に当事者性がある演技は、相手によっても変わります。
相手の反応で、次の手が変わる。
想定どおりには進まない。
だから生きます。

相互作用が生まれ、1人でできないことが可能になるのです。

逆に、独りよがりな演技は、最初から最後まで自分の中で完結しています。

「こもっている」、「閉じている」と指摘される状態もここにあります。

相手、目的、状況、変化。この4つが薄いと演技は止まります

演技が独白のように見えるとき、たいてい抜けているのは次の4つです。

相手
目的
状況
変化

相手がいるから、言葉には向かう先ができます。
目的があるから、セリフに圧が生まれます。
状況があるから、同じ一言でも意味が変わります。
変化があるから、やり取りがただの再生ではなくなります。

たとえば、謝るセリフひとつとってもそうです。

本気で許してほしいのか。
その場を早く収めたいのか。
相手を落ち着かせたいのか。
自分の責任を軽くしたいのか。
関係を切りたくないのか。

それらはなぜなのか。

それぞれの目的が違えば、行動が変わります。
行動が変われば、言葉の質感も変わります。

演技は、セリフの意味を説明することではありません。
その言葉をつかって、「何をしているか」、「それは何のためか」です。

セリフは情報ではなく、相手に触れるための道具です

台本に書かれたセリフを、情報として受け取るところで止まってしまう俳優は少なくありません。

でも、演技の中でセリフは説明文ではありません。
読むものでも、並べるものでもない。使うものです。

訴える。
責める。
誘う。
かわす。
探る。
押す。
引く。
支える。
切る。
試す。

セリフは、そのための道具です。

もちろん何のためか、何のためだったのか、実際どうだったのか…と続きます。

同じ言葉でも、何のつもりで使っているかで、まるで変わります。
ここが曖昧だと、自分は感じていても、相手にかからなくなります。

本人は丁寧に言っているつもりでも、見ている側には独白に見える。
これがよく起きるのです。

声量だけの問題ではありません。
気持ちの強さだけでもない。
言葉が行動になっていないのです。

セリフの裏にある理由をどう読むかについては、こちらの記事もつながりやすいと思います。

そのセリフ、本音ですか?|言葉の裏にある理由を生きる
https://kaorukuwata.com/acting-script-reading-truth-behind-words/

独りよがりに見える俳優は、だいたい自分を監視しすぎています

独りよがりに見える俳優というと、自分勝手な印象を持つかもしれません。
でも実際には、むしろ真面目で繊細な俳優に多いです。

役の感情を追いすぎる。
ありそうな正解の気持ちを探しすぎる。
ちゃんとできているかを気にしすぎる。
浅く見えないように、自分を監視しすぎる。

すると何が起きるか。

相手が消えます。
状況が遠のきます。
やり取りより、自分の出来不出来が前に出ます。

今ちゃんと感じられているか。
役になれているか。
嘘っぽくないか。
足りなく見えないか。

こうして自分の内側ばかり見ていると、演技は閉じていきます。

そしてそれは何のためだったのか、一度自分の目に目を当てて聞いてみる必要もあると思います。

見直すべきなのは、感情の量ではなく、行動の単位です

ここで変えたいのは、もっと感じることではありません。
見直す単位です。

私は何を感じているか。
ではなく、

相手に何をしたいのか。
この場で何を変えたいのか。
この言葉で何を起こしたいのか。

ここに戻るだけで、演技の輪郭はかなり変わります。

たとえば、次の問いは有効です。

このシーンで相手は誰か。
相手との関係はいまどう揺れているか。
何を望んでいるか。
そのために何をしているか。
相手の反応で何が変わるか。
セリフは説明になっていないか。
言葉が働きかけとして立っているか。

この先も、なぜなのか、となると…と続いていきますね。

こうした整理をすると、感情はあとからついてきます。

正確に言えば、行動が具体的になるほど感情は立ち上がりやすくなります。
逆に、感情を先に作ろうとすると、身体も声も固まりやすい。

感じているのに届かない俳優に、この固まり方は本当によく見られます。

もったいないです。

真面目にやってきた俳優ほど、この整理が効きます

ここまで読んで、自分は気持ちに頼りすぎていたかもしれない、と思った方もいるかもしれません。

でも、それは恥ずかしいことではありません。
それだけ本気でやってきたということです。

何も考えていない俳優は、ここで悩みません。
違和感があるのは、実践してきた証拠です。

だから、自分を責める必要はありません。
必要なのは、見直す場所を変えることです。

もっと感じる。
もっと盛り上げる。
もっと内側を掘る。

そこではなく、

的確に、台本読解し、実際の相手に向かう。
台本のシーンの文脈で、役本人の目的を明確にする。
書かれていることをもとに、言葉を働きかけとして使う。

この切り替えができると、準備の仕方も、台本の読み方も、稽古で止まる場所も変わってきます。

わかったつもりで終わると、演技は変わりません

ここまでの話は、頭で理解するだけなら比較的すぐできます。

たしかにそうだ。
感情より行動か。
当事者性は内向きではないのか。

そこまではわかる。

でも、実際に立つと元に戻る。
相手が入ると散る。
セリフになると、また説明っぽくなる。

これは珍しいことではありません。
むしろ自然です。

演技は、理解しただけでは変わらないからです。

読んだことを試す。
やってみて崩れる。
どこで止まったかを見る。
修正する。
もう一度やる。

この往復と質を高めていくプロセスが必要です。

さらに、感情に頼ろうとするほど身体が固くなる俳優もいます。
相手に向かいたいのに、声や身体の使い方が邪魔をする俳優もいます。

だから私は、読むこと、試すこと、身体と声を整えることを、別の問題として切り離しません。

4月のクラスでは、読解、実践、身体をつなげて見直します

4月のクラスでは、

演じるための台本読解
少人数での実践
身体と声の見直し

を、ばらばらではなく、流れの中で扱います。

台本を読んで終わりにしない。
理解したつもりで止めない。
ひとりでは整理できたことを、実際のやり取りで使える形にしていく。

そのために、

何を読めばいいのか。
何を試せばいいのか。
どこで止まっているのか。
身体や声のどこが引っかかっているのか。

そこを段階ごとに見ていきます。

もし今、

感じているのに伝わらない
セリフが相手にかからない
当事者性がないと言われる
台本を読んでいるのに止まる
相手が入ると崩れる
身体や声まで含めて見直したい

このあたりに心当たりがあるなら、4月のクラス全体像の記事から見ていただくのが早いと思います。

オンラインの台本読解から入ったほうがよい方もいます。
少人数の実践で崩れ方を見たほうがよい方もいます。
先に身体と声の整理が必要な方もいます。

今の自分に何が必要かを整理したい方は、こちらをご覧ください。

4月のクラス全体像

台本は読んだのに動けない俳優へ|4月の各種演技クラス・個人レッスンのご案内

演技は、気持ちを増やすことからではなく、

相手に向かうことから変わります

当事者性とは、自分の気持ちに浸ることではありません。
影響与え、影響受ける、この双方向の交流のことです。

演技は、感情の発散や説明ではなく「行動」です。

この前提が整理されるだけで、セリフの扱い方も、台本の読み方も、準備の順番もかなり変わります。

もしこれまで、もっと感じなければ、もっと深く入らなければ、と思い続けてきたなら、次は少し違う角度から見直してみてください。

足すべきなのは、感情の量ではないかもしれません。
変えるべきなのは、演技を見る単位のほうかもしれません。

その見直しは、きちんとやってきた俳優ほど効きます。

 

講師プロフィール 鍬田かおる

指導歴20年以上。桐朋学園芸術短期大学演劇科、新国立劇場演劇研修所・オペラ研修所、劇団青年座研究所などで長年指導。
ロンドン大学ゴールドスミス校卒。Royal Central School of Speech and Drama 修士課程ムーヴメント科修了。
イギリスSTAT認定アレクサンダー・テクニーク教師。日本演出者協会会員。

俳優や歌手の技術と身体の理解を統合し、現場で使える“交流のある演技”へ導く専門家。大学や映画スクールの講師を務める傍ら、個人レッスンで一人ひとりの強みを伸ばし、基礎力からアップさせる本格的なプロのトレーニングを中心に活動しています。

小学生から中堅、そして芸能の舞台や映像で活躍する俳優や歌手の方のアクティングコーチであるだけでなく、プロを目指す若手の育成も務める。

IDC認定インティマシー・コーディネータ(ディレクター)として映画や舞台の現場も入ります。 

これまで触れてきた演技のなんとかメソッドや、〇〇式に疑問を抱かれた方へ

あなたの違和感は、もしかすると「役」にとってのリアリティーではなかったからかもしれません。

また文化的にも、ヨーロッパで過ごした20代がある私、そしてバイリンガルである私が言うのもなんですが、日本を中心に活躍してらっしゃる方、日本語を母国語として多くの時間を過ごしてる方に向き不向きという傾向はある気がいたします。

物語、演技と言うものが、文化に根ざしている以上、やはり言語の壁もあり、また生活様式や基本的なコミュニケーションのスタイルが大きな誤解をむこともございます。これはクラシックバレエやオペラの輸入、様々な業種での変遷を見ても、お分かりいただける課題だと思います。

実際、映画や舞台で活躍するイギリスの名門ドラマスクールでは、1つのメソッド、2つのメソッドだけを追求することもなく、数年で、5つくらいのアプローチ+異なるアプローチをできる3人の先生のムーヴメントとアレクサンダーテクニーク、そしてヴォイスとインプロがカリキュラムを中心を占めていました。

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